ウィーンに本部を置く石油輸出国機構(OPEC、加盟国14カ国)は1日、定例総会を開催し、減産合意(協調減産)を来年第1四半期末まで9カ月延長することで同意したばかりだが、OPECのバルキンド事務局長が世界に広がる若者の地球温暖化、気候変動対策に抗議するデモ集会に言及し、「環境保護運動家たちの非科学的な攻撃はオイル産業にとって最も脅威だ」と述べたと報じられると、グレタ・トゥーンベリさんは4日、「オイル産業への批判の声が世界的に高まってきている。ありがとうOPEC、われわれの運動が産業界の最大の脅威という批判は私たちの運動へのこれまで最大級の称賛だ」と応戦し、話題を呼んでいる。
スウェーデンの女子生徒、グレタ・トゥーンベリさんは昨年8月、スウェーデン議会前で地球温暖化問題、気候変動対策のための学校ストライキを行い、一躍有名となった。その後、グレタさんの活動に刺激を受けた学生や生徒たちが毎週金曜日、世界各地の都市で地球温暖化対策デモ集会(フライデー・フォー・フューチャー)を開催してきた。欧米のメディアではグレタさんの活躍を大きく報道し、グレタさんはノーベル平和賞候補に挙がるほど有名人となった。
グレタさんの環境保護運動に対し、これまで欧米の極右ポピュリストたちが批判してきたが、16歳の少女への個人攻撃に終始してきた。そこに、オイル産業界の中核を担うOPECが「グレタさん批判」に加わってきたのだ。
OPEC事務局長の批判は地球温暖化、気候変動問題に直接、関与しているだけに、その批判に対し、グレタさんも無視できなかったのだろう。いよいよ、OPECとグレタさんの戦いの幕が切って落とされたわけだ(「極右派の『グレタさん批判』高まる」2019年5月4日参考)
今年の6月の欧州は暑かった。フランスでは40度を超える灼熱の日々が続いた。「観測史上最も暑い6月」という見出しがオーストリアのメディアでも報じられた。気候の変動は欧州に長く住んでいる当方もやはり肌に感じる。冬、ウィーンに雪が降らなくなって久しい。鈍感な人間でもやはり「地球の気候がおかしくなった」「ひょっとしたら、地球の軸が動いたのではないか」といった思いが湧いてくる。
そこでグレタさんのような少女が立ち上がってきたのだろう。ドイツの世論調査によると、同国では環境問題を最大の課題としてきた「同盟90/緑の党」が同国の2大政党「キリスト教民主同盟」(CDU)と「社会民主党」(SPD)を凌いで第1党に躍り出る勢いを見せてきた。やはり、多くの人々が環境対策の重要さを急務と考えだしてきたのだろう。
話は飛ぶが、欧州連合(EU)の欧州員会委員長に推薦されたドイツのCDU出身のフォンデアライエン国防相も各会派の公聴会で環境保護問題を最重要課題に挙げ、支持を要請している。欧州では2015年以来、移民・難民対策が最大の関心事だったが、ここにきて環境保護問題に関心がいく国民が増えてきた。グレタさんら次の世代の若者のたちの地球温暖化対策を訴えるデモ集会の動きに対し、OPEC事務局長が神経質となるのは当然かもしれない。
ちなみに、グレタさんの運動に対しては学校関係者からも批判の声が聞かれる。毎週金曜日のデモ集会に参加する生徒や学生たちは学校や大学の授業を休んで参加するケースが少なくないからだ。参加するなら授業のない学校の休みの日にすべきだとの主張だ。金曜日の同集会に参加するために、親が子供を学校からピックアップし、デモ集会に連れていく、といった情景も見られだした。
欧州は夏季休暇に入った。学校や大学は長い休みに入った。若者たちは十分、時間があるから、環境保護運動のデモ集会を開催することはできるが、不思議なことに、デモ集会のニュースを聞かない。彼らはバケーションに忙しいのだろうか。学校が始まってからなら、授業を休んでデモ集会をするが、夏季休暇期間はしない、というのだろうか。
誰の目にも環境保護問題は深刻だ。地球温暖化、気候不順は長い時間を経て現れてきた現象だ。二酸化炭素排出量は年々増加している。それだけにその対策も継続性が欠かせられない。環境問題の対策では短期戦は考えられない。我々の生き方が問われるからだ。環境税の導入も話し合われてきた。環境汚染の原因をじっくりと検証し、腰を据えて取り組まなければならない。
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「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年7月12日の記事に一部加筆。