昨年6月に実施された、中野区長選は、立憲民主党が主張するとおり「中野サンプラザ解体問題」が争点となりました。
解体を主張していた前区長が敗れ、計画の全面見直しを訴えた酒井直人氏(立憲民主党)が当選します。ところが3カ月後、酒井区長は「サンプラザの解体を進める」と発表します。
政治家が言葉を使い分けることは大切なスキルです。しかし、有権者にとって裏切られたような印象を残すことは好ましくありません。
信頼感が揺らいで政治不信につながる危険性があるからです。言葉の解釈で押し切っても有権者は納得しないでしょう。政治家の説明は具体的でなければ説得力がありません。
今回は、政治家言葉について解説したいと思います。大切な一票をムダにしないために政治家の言葉に注目してほしいと思います。
<政治家言葉とそのポイント>
○善処する。
「善処します」は前向きイメージととらえがちですが、誤解を招きやすい言葉です。「その状況に応じた対処をする」という意味になりますが、保留の可能性があることについても「善処する」という言葉を使うことはあよくあります。
○対応を協議する。
「対応を協議する」もよく耳にする言葉です。話し合うことの意味がありますが、協議するだけですから具体策が見出されるとは限りません。政治家の「対応を協議する」は「話し合っただけ」という保留の意味がありますから注意が必要です。
○真摯に受け止める。
「真摯に受け止める」もよく耳にする言葉です。本来は、真面目に取り組むことを意味しますので、不祥事やクレームを受けた時などに使用されます。しかし、この言葉も、「受け止めただけ」という保留の意味がありますから注意が必要です。
<政治家言葉の真意とは>
「善処する」「対応を協議する」「真摯に受け止める」には保留の意味があります。結局は、「何もしない」「先延ばしにする」「時間の経過を待つ」などの否定的なイメージしかありません。少なくともビジネスシーンには不向きです。
また、使い方が変化してきた言葉もあります。「遺憾の意」は政治家言葉としておなじみです。元々は『信長公記』に書かれていたのが最初で、手柄を立てたのに評価されずに残念という意味です。最近では抗議の意味として使用する機会が増えました。
保留を意味する政治家言葉は他にもあります。「適切な措置」「喫緊の課題」「諸般の事情に鑑み」「痛恨の極み」「誠心誠意」「包括的に考え」「可及的速やかに」などです。選挙区で政治家言葉を聞いたら、候補者に具体的に聞いてみましょう。
たとえば「サンプラザは再整備をして守ります」という候補者がいたら「解体する」「解体しない」の二択で確認する必要があります。「真摯に受け止める」と言ったら、「何に対して真摯に受け止めるのか」を確認をしなければいけません。
このような曖昧な表現で納得してしまう有権者にも問題があります(あっ、私もそうでしたが・・・汗)。選挙公約を確認するのは有権者の役割です。選挙前には、誠心誠意、虚心坦懐に、適切な措置を取れるように、熟慮しなければなりません。
さて、14冊目となる『3行で人を動かす文章術』を上梓しました。正しい文章を書きたい人には役立つ内容ではないかと思います。
尾藤克之(コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員)