朝日新聞は責任を持てるのか
7月15日に行われた安倍首相への演説妨害について朝日新聞が報じている。
朝日新聞は演説妨害があった事実と専門家の意見として下記の内容を紹介している。
「判例上、演説妨害といえるのは、その場で暴れて注目を集めたり、街宣車で大音響を立てたりする行為で、雑踏のなかの誰かが肉声でヤジを飛ばす行為は含まれない」と話す。
むしろ連れ去った警察官の行為について「刑法の特別公務員職権乱用罪にあたる可能性もある」と指摘。「警察の政治的中立を疑われても仕方がない」と話した。
言うまでもなく選挙期間中の演説妨害は論外であり、いかなる理由があろうとも許されない。日本国憲法に規定されているように公共の福祉に反する権利の行使は認められず、演説妨害が公共の福祉に反することは明らかである。
仮に7月15日の安倍首相への演説妨害が公職選挙法に抵触しないものならば、それは公職選挙法の不備の問題に過ぎず同法の改正が必要という結論にしかならない。
SNSの革命的発達により「動員のコスト」は大幅に低下し選挙妨害も容易になった。情報伝達・共有技術の変化に応じて法改正することはなんらおかしなことではない。
一方で「演説の場」に警察が安易に介入することは好ましくないという意見もあるだろう。確かに警察の「さじ加減」で演説の保障がなされることは健全とは言えない。
だからこそ演説妨害に対してはジャーナリズムが強く非難の姿勢を示すことが求められているのだが、朝日新聞の姿勢はどうか。
「ヤジを飛ばす行為は含まれない」とか「警察の政治的中立を疑われても仕方がない」
という意見を紹介して演説妨害が沈静化するはずがない。むしろ増長・過激化するだけだろう。
朝日新聞は他人の意見を紹介する形式で事実上、演説妨害を支援していると言わざるを得ない。
それどころか社説では「参院選 首相の遊説 政権党の度量はどこに」のタイトルで演説妨害を非難せず「国民に広く政策を訴えるつもりがあるのか、首をかしげざるを得ない。」と挑発する始末である。
産経新聞によれば、既に小規模ながら演説妨害者とそれに距離を置く市民との間で衝突が起きている。
もし大規模な衝突が起きた場合、朝日新聞は責任を取れるのか。あり得ない姿勢である。そして今だに「こんな人たち」の語を得意になって引用している。あきれるほかない。
知られていない公職選挙法第148条
安倍首相への演説妨害とともに公職選挙法への注目が集まっている。
安倍首相への演説妨害が公職選挙法に違反するか否か議論をするのも良いが、この問題を焚きつけているのは朝日新聞であることは明らかだから、どうせなら公職選挙法にある報道条項にも関心を持ってみてはどうだろうか。あまり知られていないが公職選挙法には報道について規定がある。
公職選挙法第148条1項は次のように記されている。
(新聞紙、雑誌の報道及び評論等の自由)
第百四十八条 この法律に定めるところの選挙運動の制限に関する規定(第百三十八条の三の規定を除く。)は、新聞紙(これに類する通信類を含む。以下同じ。)又は雑誌が、選挙に関し、報道及び評論を掲載するの自由を妨げるものではない。但し、虚偽の事項を記載し又は事実を歪曲して記載する等表現の自由を濫用して選挙の公正を害してはならない。
この条文で目に付くのはやはり但し書き以降の部分であり、新聞・雑誌に対して「表現の自由を濫用して選挙の公正を害してはならない。」と明快に記している。
また、この148条1項但し書きに違反した場合は罰せられる。公職選挙法第235条の2は次のように記されている。
第二百三十五条の二 次の各号の一に該当する者は、二年以下の禁錮 (こ)又は三十万円以下の罰金に処する。
一 第百四十八条第一項ただし書(第二百一条の十五第一項において準用する場合を含む。)の規定に違反して新聞紙又は雑誌が選挙の公正を害したときは、その新聞紙若しくは雑誌の編集を実際に担当した者又はその新聞紙若しくは雑誌の経営を担当した者
これまた明快であり、仮に新聞社が表現の自由を濫用して選挙の公正を害した場合、新聞記者や経営者は処罰されるのである。
管見の限り、公職選挙法第148条違反で処罰された新聞・雑誌関係者はいない。
条文を一読してわかるように、かなり強力な規制だから、その適用に当局が慎重になるのは当然である。無理して適用すれば国民世論から猛批判を受けるのは必至である。ただし、これは国民世論が新聞・雑誌を信頼している場合であり、信頼を失った場合は話は違ってくる。
演説妨害を非難せず社説で堂々と「国民に広く政策を訴えるつもりがあるのか、首をかしげざるを得ない。」と書く新聞を信じる者はどれだけいるのだろうか。
新聞が信頼を失えば記者は失業だけで終わるとは限らないのである。
このことを朝日新聞はもう少し真剣に考えるべきではないか。
その時、朝日新聞は…
今後も朝日新聞を「中立」を装いつつも演説妨害者を支援していく可能性が高い。
「識者の声」などを利用して「ヤジは公選法に反しない」とか「市民の声である」といった意見を紹介していくに違いない。
朝日新聞がこうした意見を紹介した場合、我々は即座に朝日新聞に対して公職選挙法第148条1項に規定された「表現の自由を濫用して選挙の公正を害してはならない。」に抵触していないか問う必要がある。刑事訴訟法上の「告発」はともかくネットなどを通じて平和的に問うならば問題はない。
真面目に考えれば公職選挙法第148条は廃止したほうが良いに決まっている。しかし、朝日新聞の暴走を見る限り、今、この規定に触れることはやむを得ない。
将来、公職選挙法第148条が廃止された時、朝日新聞は信頼を回復しているだろうか。それとももうなくなっているのだろうか。筆者としては前者を願うばかりだが…。
高山 貴男(たかやま たかお)地方公務員