毎度毎度の報道機関の思いこみ、刷り込み、偏見には本当に嫌になります。
Twitterではアニメファンの方々を中心に「アニメ好きが犯罪者のように扱われるような報道は謹んで!」というつぶやきがあちらこちらで見られますが、今回またしてもそういった偏見報道があったのでしょうか?
いい加減にして欲しいですよね。
これはもちろん当然のことですし、多くの人達がそのつぶやきをリツイートして賛同されています。
今回の事件で「アニメ」「アニメ好き」「アニヲタ」というキーワードが出てきたのは、被害にあわれたのがアニメの制作会社さんだったからだと思いますが、私の記憶だと、おそらく猟奇的な事件の犯人とアニメ好きのオタクと呼ばれる人達が、安易に結び付けられるようになったのは、1988年に起こった連続幼女誘拐殺人事件があったからだと思うんですね。
当時、犯人の宮崎勤が大量の暴力的な漫画本とビデオを所有していたことから、ものすごい漫画とアニメそしてホラー映画へのバッシングの嵐が吹き荒れました。
そしてこういった猟奇的事件が起きた時に、毎度毎度とんでもない方向から、とばっちりを受けるのが、薬物問題を抱える当事者、家族です。
薬物の場合は全くなんの関係もない事件でも、突然「薬物犯じゃないか?」などと平気で言われます。
多分、この国のマスコミは薬物乱用者や薬物依存に苦しむ人には人権がないと思っているんですよね。
一生懸命回復しようとしている人や、回復し社会復帰した人達そしてその家族や子供達がいるにも関わらず、声をあげにくい人に対しては「思いこみ」「誤解」「偏見」なんでもかんでも言いたい放題。
まさにマスコミ特に地上波TVは弱い者いじめの巣窟です。
そもそも「アニメ好き」と同じく、通り魔的、猟奇的な事件に「薬物」が安易に結び付けられるようになったのは、
なんといっても1981年に深川通り魔事件が起きたからです。
犯人の川俣軍司に覚せい剤の使用歴があったことから、あの事件は覚せい剤の作用による殺人事件と安易にレッテルを貼られてしまいました。
川俣軍司は、覚せい剤を使用するずっと以前から問題行動が頻出しており、何度も刑務所を出入りしています。
宮崎勤もそうですが、原因は複雑に絡み合っていて一つに特定することなどできません。
このように、すでに30年以上前に起きた事件であっても、あまりに印象的かつ、一つのキーワードを繰り返し報道された事件があると、人はそのキーワードを強烈にインプットしてしまいます。
例えば、親を殺した事件など、嫌になるほど繰り返し沢山報道されていますが、そのほとんどを他人は記憶などしていません。
けれどもそこに「金属バット」「受験戦争」などというキーワードを入れると「あぁ、あの事件!」と、1980年に起きた、浪人生による両親の撲殺事件を想い出される方は多いのではないでしょうか。
このように1つのわかりやすいキーワードを繰り返し報道されると、人々の記憶に長い間しみついていってしまうのです。
その弊害として現在起きているのが、今回のような凶行で凄惨な事件が起き、しかもその動機や原因が一向に理解できないような事件が起きると、人は恐怖のあまり、なんとか理解しようと落とし所を探すようなんですね。
そこで毎回知識のないコメンテーターがスケープゴートとして出してくるのが「犯人薬物使用説」なのです。
こうやって報道に出されることで人々の間で益々「薬物凶悪犯説」が強化されていってしまいます。
実際は、薬物を使っていない人の凶悪犯罪の方がずっと多いにも関わらずです。
そして7月19日のテレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」でもそれは起きてしまいました。
テレビ朝日報道局コメンテーター室コメンテーターである玉川徹氏が番組の中で、今回の放火殺人事件の犯人について、
「薬物ってことは考えられないんですか?異常な興奮ですよね・・・」
などと覚せい剤の素人丸出し発言を突然したんですね。
あのですね、覚せい剤を使った人がみんながみんな異常に興奮してたらすぐわかるし全員即逮捕されますよね。
官僚だって仕事しながら使っているんですよ。
時々報道される覚せい剤で奇声をあげたりしている人は、なんらかの重複障害を持っていたり、元々の気質だったりといった影響もあるんです。
そして何度も言っておりますが、これほどの凶悪犯罪に至るには長い間の経過があり、要因は複雑に絡まり合い、一つに特定できる訳がありません。
しかもそれに対して、あろうことか今度はゲストコメンテーターの東洋大学の社会学部教授である桐生正幸氏が
「もし仮に薬物の影響があるということであれば、むしろそちらの方が説明がしやすいので・・・」
と、コメントしたんですね。
この人、仮にも社会学者名乗っているんですよね?
少なくとも、我々と社会学は密接に関わっていますし、他の東洋大学の社会学の先生らは、薬物依存回復施設の方々と共同で研究されたりしてますよ?勉強してます?と突っ込みたくなるんですが、この凶悪事件が薬物使用の一言でどう片付くというのでしょうか?
しかも、こうやって「薬物やった人は、凶悪事件を起こす人なんだな」と国民の脳に刷り込まれていきます。
なんども言いますが、これまでに起こった凶悪事件は、薬物の影響など一切ない人の事件の方がずっと多いにもかかわらずです。
こんな短絡的思考では、真の再犯防止など至るはずがありません。
こういう薬物問題のエセ専門家が地上波TVで垂れ流す「思いこみ」「誤解」「偏見」に対し、我々はきちんと声をあげ、謝罪と訂正を求めていく所存です。
薬物乱用や依存症問題から回復しようとする人達はもちろんのこと、現在使用し止められない人にももちろん人権があります。
健康障害として、適切な支援や治療を受ける権利があります。
間違った知識で恐怖心を植え付け、社会から排除しようとすることは誰のためにもなりません。
エセ専門家やコメンテーターに対して、我々もいい加減うんざりしますけど、是正されるまでしつこく声をあげていく所存です。
田中 紀子
公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表
国立精神・神経医療センター 薬物依存研究部 研究生
競艇・カジノにはまったギャンブル依存症当事者であり、祖父、父、夫がギャンブル依存症という三代目ギャン妻(ギャンブラーの妻)です。 著書:「三代目ギャン妻の物語」(高文研)「ギャンブル依存症」(角川新書)「ギャンブル依存症問題を考える会」公式サイト