1%の「愉快犯」が政治を変える

池田 信夫

今回の参議院選挙ほど「諸派」が注目された選挙は少ない。自民・公明が勢力を維持する一方、野党が総崩れになった結果、マスコミに無視された「れいわ新選組」や「NHKから国民を守る党」が躍進し、得票率2%を超えて「政党」になった。

特にれいわは、山本太郎代表を比例区の第3位にする奇抜な戦術で、彼自身は落選したが、第1・2位の候補が当選した。毎日新聞の集計によれば、これは党名ではなく「山本太郎」と書いた有権者が96万人以上もいたためだ。

毎日新聞より

参議院比例区の非拘束名簿式は昔の全国区と実質的に同じだが、この得票は現在の方式になってから最多であり、他の著名人に比べても群を抜いて多い。この得票が、特定枠の第1・2位候補に割り当てられた。

今回の参院選の投票率は48.8%と、国政選挙としては史上最低から2番目だった。こういう状況では、ふだん投票に行かない有権者を投票させた候補が勝つ。動員力は政策ではなく感情である。

れいわやN国のあおる感情は明確だ。自民党・公明党やNHKへの不快感である。れいわが東京選挙区に創価学会員の候補を立てたのも、N国が「受信料払うな」だけ連呼するのも、単なる不快感の表明である。

こういうネガティブな感情が建設的な政策を生むことはないが、政治を変えることはある。ユダヤ人を撲滅しようとしたヒトラーも白人中心主義のトランプも、世界の政治を変えてしまった。

そういう政治的な愉快犯は人口の1%ぐらいいるので、定員40人以上の大選挙区では1議席ぐらい取れる。この制度的なバグを見つけたのは、N国のイノベーションだった。彼らは統一地方選挙の大都市部で、多くの候補を当選させた。

候補者の名前を覚えていなくても「NHK」という名前は誰でも知っているので、NHKのきらいな有権者が投票するだけで当選できる。れいわも、そのバグを利用したのだろう。れいわの党名は知らなくても「山本太郎」という名前は覚えやすい。

もちろん今はれいわやN国が政権に影響を及ぼすことはできないが、ナチスも初期には「諸派」の泡沫政党だった。山本氏は「次の衆議院選挙で100人ぐらい候補を立てる」と表明しているので、彼がヒトラーのように既存政党にかつがれる可能性はある(もともと彼は自由党だった)。

日本は独裁者とは無縁だったが、その素地はある。MMTのような「反緊縮」理論が、これほど大きく取り上げられるのは日本だけだ。安倍政権がリフレへの過剰な期待をもたせながら結果を出せなかったので、右翼にも左翼にも「財政支出で一発逆転しろ」というマグマがたまっているのだ。

ゆるやかに景気が後退する程度では何も起こらないだろうが、資産バブルが崩壊して金融危機になったら、何が起こるかはわからない。反緊縮のメッセージは、極右から極左まで結集する軸になる可能性がある。これもナチスと同じである。