「ビルの谷間のラーメン屋」ソニーが獲得した“宰相”の座

長井 利尚

2019年7月17日、ソニーは、フルサイズセンサー搭載デジタルカメラとしては、世界最高の画素数(61MP)を誇る、新型フルサイズミラーレス一眼「α7R IV」を9月6日に発売することを発表した。「α7R IV」は、2017年11月25日発売の「α7R III」(42MP)の後継機となる。

ソニー公式サイトより:編集部

「α7R IV」発表前、フルサイズミラーレス一眼の4強(ニコン、キヤノン、ソニー、パナソニック)のうち、画素数が最も多かったのは、2019年3月23日に発売された、パナソニック「LUMIX S1R」(50MP)だった。

フルサイズ一眼レフで最も画素数の多かったキヤノン「EOS5Ds」(53MP、2015年6月18日発売)をも上回り、フルサイズセンサー搭載デジタルカメラとしては、ダントツで世界最高の画素数を実現した。

フルサイズセンサーを搭載したデジタルカメラの画素数は、24MPクラスが一般的で、高画素機が30MP以上50MP以下と考えれば間違いはないと思う。50MPを超える画素数のセンサーをフルサイズに収めるのは設計上の無理があるため、意味のないことと考えられてきた。

以上の理由から、私は、50MPを超える超高画素機のお勧め機種は何かと尋ねられたら、本当に50MPもの画素数が必要なのかを確認した上で、フルサイズよりセンサーが大きい(約1.7倍)中判ミラーレス一眼である、富士フイルムの「GFX50S」(51MP、2017年2月28日発売)を推薦してきた。中判デジタル一眼の世界では、ペンタックスに「645Z」という一眼レフ(51MP、2014年6月発売)があるが、超高画素機の場合、一眼レフよりミラーレス一眼の方が撮影時のショックが非常に少なく、画素数の多さを活かす写真の撮影に明らかに適しているため、2017年以降は「GFX50S」を推薦するようになった。

フルサイズセンサーの面積は、中判センサーの6割弱しかない。中判センサーは、100坪の平屋建ての家に5人で住むようなものだ。一方、フルサイズセンサーは、60坪の平屋建ての家に5人で住むようなもの。画素と画素の間に余裕があれば、たくさんの光を取り込めるので、暗い場所でもノイズの少ない写真が撮れる。

普通に考えれば、60MPを超える画素を詰め込んだフルサイズデジカメを企画するのは「狂気の沙汰」。それを実現したのは、イメージセンサー業界のリーディングカンパニーたるソニーの面目躍如としか言いようがない。61MPセンサーのメリットを引き出しつつ、ネガを可能な限り抑え込むことに成功しているので、肩の力を抜いて、普通に撮ることができる(もちろん、メモリーカードやPCは、極めて高いスペックのものを要求されるので、良い子の皆さんは超高画素機には絶対に手を出さないでほしい)。

フルサイズ機の画素数競争に火をつけたのは、2012年にニコンが発売した一眼レフ「D800」(36MP)だった。2013年には、ソニーがフルサイズミラーレス一眼初号機の高画素版「α7R」(36MP)で追随。

2015年には、キヤノンが一眼レフ「EOS5Ds」で前人未到の53MPを達成した。しかしながら、撮影時にミラーショックが発生する一眼レフに、53MPの超高画素イメージセンサーは荷が重すぎたようだ。ミラーアップという、極めて特殊で面倒な方法を使わない限り、53MPのセンサーの性能を活かすことができないという、本末転倒な欠陥機であった。スペック重視の開発で暴走し、大失敗したキヤノンの「黒歴史」として語り継がれている。

2019年夏、ツートップ(ニコン、キヤノン)の課題に、五輪などのスポーツカメラマン御用達のフルサイズミラーレス一眼旗艦機「α9」(24MP、20fps)と同等以上の機種を出すことだけでなく、「α7R IV」(61MP、10fps)と同等以上の超高画素機を出すことも加わった。「α7R IV」は、超高画素機ながら、10fpsの高速連写性能も確保している、化け物のようなカメラだ(10fps以上の連写性能を持つカメラであれば、スポーツなどの激しく動く被写体の撮影に十分な性能を有していると考えて良い)。

ところで、私は、衆院旧群馬3区(定数4)で生まれ育った。福田赳夫、中曽根康弘、小渕恵三、山口鶴男の4氏が死闘を繰り広げ、「上州戦争」の舞台となった凄まじい土地である。同居していた祖父(1918-2010)は、同じく大正7年高崎生まれの「大勲位」と親しく、衆院選の前には、必ず「大勲位」が祖父に挨拶に来ていた。

私は、「中曽根の金庫番」と呼ばれた、秘書の上和田義彦さん(故人)には、よく可愛がっていただいたものだ。上和田さんのご自宅は、私の実家から徒歩圏の場所にあったので、5歳頃から小学校高学年まで、祖父母と頻繁に遊びに行った。私は、教科書に載っていない政治経済の知識を、幼少期に身に付けることができた。

万年3位メーカーだったミノルタのカメラ部門を継承したソニーが、百戦錬磨のツートップを凌駕しつつある光景を見て、「ビル(福田赳夫、中曽根康弘)の谷間のラーメン屋」と自嘲していた小渕恵三氏が、宰相の座を射止めた1998年の出来事を思い出した。

左から福田赳夫氏、小渕恵三氏、中曽根康弘氏(官邸サイトより:編集部)

普通の人が宰相を目指すことがないように、普通のカメラマンが超高画素機を求めるのは無謀だ。代償が大き過ぎる。主な被写体、撮影スタイルなどを考慮すれば、あなたにとってベストなカメラは、今売れているカメラでもなければ、今注目されているカメラでもないかもしれない。

幼少期を西ドイツで過ごし、北米の高校と大学を卒業した親友に、「某社のAPS-Cデジタル一眼レフの購入を検討しているのだが、長井さんの率直な意見を聞かせてほしい」という相談を受けたことがある。私は、親友が既に持っているレンズ資産、使用目的、撮影スタイルなど、いくつかの質問に答えてもらった上で、富士フイルムのAPS-Cミラーレス一眼が親友にはベストだと推薦した。その直後、親友は私の推薦したカメラを購入した。もうすぐ1年になるが、非常に気に入っており、愛用しているとのこと。カメラソムリエ冥利に尽きる。

フルサイズミラーレス一眼は、高いものではボディだけで80万円以上もする。世の中には、カネと引き換えに、特定の機種の提灯記事を書く、倫理的に問題のあるライターが腐るほどいる。カメラ店には、売り上げ目標達成のため、本来は必要のない機能を備えた高額な機種を売りつける者もいる。そのため、カメラに無駄金を投じる人が後を絶たない(特に、大企業を定年退職した記念に、必要以上に高額なカメラを買う男性が多い)。

そこで、有料(消費税込10,800円/時)ではあるが、中立な立場で、利益相反を行わないカメラ選びの相談の受付を開始した。興味のある読者は、以下のメールアドレスあてに、お気軽に問い合わせのメールをお送りいただきたい[email protected]まで)

長井 利尚(ながい としひさ)写真家
1976年群馬県高崎市生まれ。法政大学卒業後、民間企業で取締役を務める。1987年から本格的に鉄道写真撮影を開始。以後、「鉄道ダイヤ情報」「Rail Magazine」などの鉄道誌に作品が掲載される。TN Photo Office