吉本興業の岡本昭彦社長が22日都内で記者会見を開き、反社会的勢力から金銭を受け取っていた契約解除処分を下していた雨上がり決死隊の宮迫博之とロンドンブーツ田村亮の処分撤回を表明した。
また自身と「闇営業問題の一連の騒動で多大な迷惑をかけた」として大崎洋会長と共に1年間、50%の減俸を明らかにした。
宮迫と亮の処分が急転した背景には同事務所先輩の明石家さんま、ダウンタウン松本人志らの力によるものが大きいが、メディアの功績も忘れてはいけない。
一方で、メディアにとって都合の悪いと思われる部分は相変わらずカットや切り取りをする部分がみられた。
今回の吉本騒動からテレビやネットの功績と課題を、メディア・芸能ライター、たまにテレビの仕事を手伝う筆者が考察する。
約1000万再生回数 ネット配信が宮迫と亮を救った
宮迫と亮が20日午前11時30分頃、自身のツイッターで「午後3時から記者会見を行います」とツイート。
会見まで約3時間30分前でかなりドタバタでテレビが放送するのは難しかっただろう。
なぜなら、テレビはスポンサーからの広告収入で成り立つビジネスモデルなのと、芸能ネタで事件・事故・災害など社会的影響力の大きいニュースほどではないからだ。
そこで、近年活躍するのがネット配信だが今回も威力を発揮。
会見の模様は午後3時からNHKと日本テレビ・テレビ朝日・TBS・フジテレビの民放各局のネット配信チャンネルとアベマTV、ニコニコ生放送、ヤフーなどが生配信。
その生配信内では2人が吉本側から圧力をうけた可能性が次々と明らかに。
まず、宮迫と亮が反社会的勢力の会合に出席したことや金銭授受があったこと、嘘ついたことを謝罪。
2人はすぐに吉本側に謝罪会見を要求したが、岡本社長に「亮、辞めて1人で会見してもいいよ。(でも、それをしたら)全員クビにするから」と脅された。
さらに、会見を開く許可は降りたものの、「期限はこっちで決める」と言われ、先延ばしされる懸念から2人は弁護士を設定。
すると、「僕と亮くん2人の引退会見、もしくは、2人との契約解除。どちらかを選んでください」という書面が突然送られ、吉本の対応が反転。
今回の謝罪会見、2人の並々ならぬ覚悟と決意があったのはもちろんだが、ネットで生配信できる体制が整っていたことも大きい。
わかる範囲で視聴者や来場者数を調べてみた。(7月22日22時現在)
- テレ朝ニュースチャンネル 236万回
- FNN.jpプライムオンライン 162万回
- ヤフー 186万回
- 産経速報動画チャンネル 213万回
- ニコニコ生放送 来場者数 41万9千777人、コメント数 48万2千93コメント
上記5つのチャンネルの視聴者数・来場者数(ニコニコ生放送のみ)を合わせると838万9777人。
リアルタイム視聴者数と合わせると1000万超の再生数が予想される。
再生回数は1度チャンネルを離れてまた戻ってきた回数もカウントされるので単純に838万万人が視聴しているわけではないが、驚異的な数字だ。
上記5つのチャンネルはアーカイブで現在も視聴可能で再生回数は伸び続けている。
松本人志と加藤浩次、真っ向意見対立を映し出したテレビの好判断
次にテレビが果たした役割はどうか。
21日の『ワイドナショー』(フジテレビ系)は宮迫と亮の緊急記者会見をうけてフジテレビが緊急生放送の舞台を用意し、事前収録した内容を全て差し替え。
余分なコメンテーターをおかず、松本と東野と芸能レポーターのみで吉本騒動に焦点を絞り「視聴者に真実を伝えようとしている」と好感がもてた。
番組内で松本は「僕は大崎洋とずっとやってきたので、大崎が進退も考えると言ったのを止めた。大崎会長は兄貴なのでいなかったら僕も辞める」と番組発言。
宮迫と亮の記者会見が前日の夕方過ぎに終わり、放送まで約10時間少しで、フジテレビはテレビ局の中で吉本の株主比率が12%少しと一番高くお付き合いも深いだろうが、よく生放送の決断を下した。
視聴率は関東地区16.7%、関西地区22.1%番組最高をマーク。
参照:“松本興業”提言した「ワイドナショー」生放送、平均視聴率16.7%(サンスポ)
その翌日、22日『スッキリ』(日本テレビ系)で加藤浩次が松本の発言に言及。
「松本さんとずっとやってきた同志だと思う。その気持ちはすごくわかる。でも松本さん、僕は後輩ながら言わしていただくと、会社のトップなんです。みんなつらい思いをしていて、トップが責任取れない会社って機能してるのかな」と訴えた。
その上で、「松本さんのマネジャーではなく、(岡本社長は)会社のトップ。社員の家族もいる、そして、芸人の家族、生活があるんです。今、吉本が取締役以上、経営側が絶対変わらないとダメ、この状況が変わらないなら退社します」と経営陣の刷新がなければ退社の意向を示した。
日本テレビ上層部は高視聴率を獲得したい意向があったかもしれず、大物の松本吉本にと考えた場合けっして忖度が働いてもおかしくなかったが放送したのは立派だ。
大崎会長や岡本社長と仕事を続けたい松本と経営陣を刷新してほしい加藤。
現在は意見が相対立する2人だが、松本と加藤双方が吉本を変えたい、芸能界を変えたいという熱い思いが多くの視聴者に届けられテレビ局からも伝わった。
記者会見を生放送し続けた在京局、しなかった在阪局
一方で、吉本騒動のテレビ報道の仕方に課題が見受けられる。
吉本騒動の報道スタンスが在京局と在阪局でハッキリ分かれた。
岡本社長の記者会見は14時30分からスタートし5時間20分と異例のロングラン会見。
会見の岡本社長の発言に終始回答がちぐはぐでわかりにくいことや事実関係を曖昧にしようとする姿勢に反省の色はうかがえず、所属芸人やネット上では批判の嵐。
まず、「全員クビにするからな」と言ったのは「冗談で言ったが全く受け入れられなかった」と釈明したものの、SNS上は「お笑いの会社なのに冗談下手すぎる」、「笑いが何かわからない時点で社長失格」などと辞任を要求する声も。
次に、吉本興業が反社会的勢力のイベントを支援していた件は「事実ではない。すべての取引先の反社会的勢力をチェックしているが、そのスポンサーまではチェックしてなかった」と弁明するも反社チェックの甘さを逆に露呈。
さらに、ギャラに関する質問で「5対5ないし6対4」と答えるとすぐさま吉本芸人がツイッター上で「9割9部9厘:1厘の間違いでは」、「あの仕事は、吉本は2万円で引き受けたのか」など続々と反論。
極めつけは、さんまや松本に「さん付け」し、ネット上では「上下関係がおかしい」、「この人、本当に会社に属してるの?」「今部長さんはいらっしゃいませんというような違和感」とビジネスマナーまで指摘される始末。
この会見の模様を在京局は14時前後から日本テレビは『ミヤネ屋』、フジテレビは『グッデイ』が会見の模様をCMと一部コメンテーターのコメント以外ほぼノーカットで生放送。
さらに、フジテレビは『グッデイ』後の再放送ドラマ枠を差し替え、午後4時50分から放送開始予定の『Live News it』を1時間繰り上げ会見の模様を特別編成で伝えた。
一方、在阪局は記者会見を生放送する局は『ミヤネ屋』以外なし。
『ちちんぷいぷい』(毎日放送系)という情報番組は1999年10月にスタートし、約20年近く続関西の人気番組。
月曜~金曜午後1時55分から3時49分まで放送され、局アナがMCを務め吉本芸人が多数出演。
今日は吉本からハイヒールリンゴ、村上ショージが出演していた。
岡本社長の記者会見がスタートし5分程生放送したが、すぐスタジオに戻りコメンテーターがコメントし会見を切り取ったVTRが放送され、別コーナーへ。
スポンサーとの取り決めで別コーナーをどうしても放送しなければならない事情があったのかもしれない。
ただ、筆者も関西出身で時々当番組を視聴するが、芸能ネタでも社会的関心が高ければ他のコーナーを別の日に放送することがある。
在京局のように一部MCやコメンテーターのコメントを挟む程度ならわかるが、会見と同時刻に放送開始しながら冒頭部分だけ生放送でわざわざ会見を切り取ってVTRで放送するのには違和感満載。
また、月曜~金曜15:50~16:49まで放送の『キャスト』(朝日放送系)の報道にも疑問が残る。
生放送するどころか記者会見場の外から芸能レポーターが状況を伝え、スタジオのアナウンサーや評論家とクロストーク。
もちろん、両番組や他の在阪局の番組はVTRではあるが宮迫と亮の反社会的勢力との交際、金銭授受、会見の検証はしていた。
『ちちんぷいぷい』ではハイヒールリンゴが岡本社長が「全員クビにする力がある」との発言を「場を和ませるために」と言い訳したのに「パワハラの典型」と批判。
後番組『ミント』(毎日放送系)では吉本芸人のたむらけんじが岡本社長のギャラの説明に疑問を呈した。
岡本社長が「ギャラの取り分はざっくり平均値でも5対5から6対4」と会見で説明したことにたむらは「9対1の時代もあると思うけどね。皆さん結果を出しギャラが上がってきてるのはあると思う」とキッパリ。
その上で「他の事務所は給料の割合が決まっているので、明細書になんぼテレビ局さんからもらった、あなたとは5対5だから、これがあなたの取り分、事務所がこの取り分って出るんやて。うちはここがないねん。だから不信感というか判断がつかない」と吉本の不明瞭な給与システムに苦言。
このように在京局に比べ、在阪局は吉本騒動に対して報道が甘く視聴者のニーズを満たしていない印象を強くもった。
筆者は関西に30年以上住んでいるが、在阪局の番組に吉本芸人が頻繁に出演している。
さんまと島田紳助が関西で数年ぶりに共演した『パペポTV』(読売テレビ)、やしきたかじんが差し棒1本で時事ネタを斬りまくっていた『たかじんの胸いっぱい』(関西テレビ系)、ダウンタウンは浜田雅功が他局に乱入する『ごぶごぶ』(毎日放送系)、など今まで沢山笑いやパワーをもらった。
ただ、最近は同じ時間帯に吉本芸人が3番組出演しているのも珍しくない。
在阪局の報道スタンスは今にはじまったことではなく、過去にも吉本の不祥事をスルーする光景を何度も目にしてきた。
吉本への自主的な配慮なのか、忖度なのか定かではない。
だが、松本や加藤が吉本へ変革の声を上げはじめた今こそ在阪局は吉本への報道スタイルやキャステイングを他事務所も積極的に登用するなど多様化する時期ではないだろうか。
今回の吉本騒動、「どうせ、タブーで放送しないんじゃないの?」、「放送しても忖度して最小限でしょ」と思っていた人が多いかもしれない、筆者もその一人だった。
ところが、在京局が宮迫と亮の会見を皮切りにネットを有効活用しながら、連日報道に積極的に時間を割いているのは明るい兆候。
在阪局も在京局の風に乗って苦言、提言、批判をもっと積極的なスタイルで伝えていくことが吉本をいい方向に変えるきっかけに必ずなる。
吉本、お笑い、テレビを愛する一人として一日も早い吉本騒動の終息を願っている。
奥村 シンゴ フリーライター
大学卒業後、大手上場一部企業で営業や顧客対応などの業務を経験し、32歳から家族の介護で離職。在宅介護と並行してフリーライターとして活動し、テレビ、介護、メディアのテーマを中心に各種ネットメディアに寄稿。テレビ・ネット番組や企業のリサーチ、マーケティングなども担当している。