東京オリンピック開幕まで1年:外国人旅行者の運転はヤバいかも!

新田 哲史

きょう7月24日で、東京オリンピックの開幕までちょうど1年。オリンピック効果により、2020年は近年急増中の訪日外国人旅行者の数がさらに増えるのは確実だが、インバウンド効果はプラスばかりではない。実は近年、外国人旅行者のレンタカー事故が急増していることはあまり注目されていない。

レンタカーを借りた外国人旅行者が、法規や運転スタイルの差異から不慣れな日本の道路で思わぬ事故を起こすのも不幸だが、我々日本人が巻き込まれるリスクも考えると決して他人事ではない。

外国人旅行者の運転事故急増で、AIGがユニークな警鐘

訪日外国人は2013年に初めて年間1000万人を突破し、昨年2018年はついに3000万人の大台に到達した。国交省の調べでは、すでに2011〜2015年の段階で訪日客のレンタカー利用者数も5倍になっており、そのあとも増えている可能性は高い。

そして問題なのは、事故の件数も増えていることだ。近年、入域観光客数でハワイを抜いた沖縄県では、外国人によるレンタカーの事故件数は物損などの軽微なものを含め、2016年の3年間で3倍の9,648件に達したという。公益財団法人・交通事故総合分析センターが同時期の3年間、全国のレンタカーの死傷事故件数を調べたところ、2016年には全国6,150件のうち、81件が外国人の借りたレンタカーによるものだった。

国交省資料より

日頃は政治やメディアの論評をしている筆者が専門外の本件に気づいたのは、参院選の真っ最中の18日、企画連載『転ばぬ先のチエ』でコラボを組んでいるAIGジャパンからのお誘いで、新プロジェクト発表の記者会見に出席したのがきっかけだった。

記者会見するリッチー・マコウ氏、すみれさんら(編集部撮影)

(といっても本件はコラボ記事ではないので、他企業のイベント取材と同じく内容の相談、忖度なしに書いていることも念のために付け加えておく)。

損保らしくAIGとしては外国人が日本の交通ルールを知らずに事故に遭うリスクは意識しており、「How NOT to Drive in Japan」と銘打ったプロジェクトを開始するという。

ただの啓発では関心を集めづらいが、そこは企画力の見せ所だ。AIGがスポンサードしているラグビーNZ代表「オールブラックス」のメンバーが出演し、日本で危うく事故に遭いそうな外国人ドライバーを「力技」で救出している。例えば日本は先進国でも少数派の左側走行のルールだが、右側走行のクセが付いている外国人運転手の車に選手たちがタックルし強制的に左側車線にシフトさせるといったユーモラスな演出は、お世辞を抜きに面白く、なかなかの傑作とは思った。

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外国人運転手の事故原因は、ルールの違いもあるが、国によって運転の慣習やスタイルといった「感覚」的な部分も小さくなかろう。筆者が昔、仄聞した例を挙げると、交差点の向こうが渋滞した状態であれば、日本人の感覚なら青信号でも交差点に進入せずに待機するが、ある新興国でその感覚でいた日本人ドライバーは渋滞時に交差点の手前で待機していると、後続車からクラクションで思い切り「前に行けよ」とブーイングを受けたのだそうだ。

あるいはこれは筆者自身が20年前にソウルで体験したことだが、横断歩道で歩行者向けの信号が青になったからといって勢いよく歩き出すと、これが危なかった。今はどうか知らないが、当時のソウルのドライバーは車道向けの信号が赤になっても平気で突っ込んできた。

観光バスに乗っている時も同じで、赤信号になる寸前でも平気で横断歩道を通過するものだから、ある交差点では、タッチの差で歩行者が動き始めた横断歩道の手前で急ブレーキ。歩行者にぶつかる寸前だった。私を含めてバスに乗っていた日本人観光客は結構肝を冷やしていたのを思い出す。

韓国人は日本人より急ブレーキが多い!? 事故のメカニズム

さて、ここまでの話で、問題があることは認識できた。では対策があるのかだが、外国人ドライバーの「挙動」について研究した大阪大学の土井健司教授らの共同執筆論文を拝読すると、

日本人と比較し外国人はDID外の単路で急減速を行う傾向が強い一方で、大きな減速度を伴う急ブレーキは交差点内で発生する傾向が強いことを明らかにした。※筆者注  DID=人口集中地区(Densely Inhabited District)

などと、なかなか興味深いことが書かれている。

出典:観光地における訪日外国人運転者の運転挙動および事故リスクに関する研究

また、日本における外国人運転者の交通違反や、事故データから国籍別の特徴を抽出したところ、「東アジアや東南アジアの運転者は優先意識が相対的に低く、このことが交差点における事故を誘発する」のだという。ここはまさに先述したソウルの体験を考えると、うなづけるものもある。

国交省が近年、ETCを通じて取得してきた急ブレーキのデータも解析。急減速の交差点での発生比率を見ると、人口集中地については、香港や韓国のドライバーの方が、日本人より比率が高いことの有意差があった。

出典:観光地における訪日外国人運転者の運転挙動および事故リスクに関する研究

雑なまとめ方をすると、日本人よりは外国人は総じて運転が粗い傾向はそれなりに示唆されてるので、やっぱり気をつけましょうね、となる。ただ、論文で

事故対策を行う上では急減速が集中して発生している交差点を中心に対策を講じる必然性が示された

とも述べているように、道路行政の打ち手を見つけるヒントに繋げるなど前向きに捉えたい。当然、日本人ドライバー、歩行者の留意点にもなる。

筆者も幼児を連れて出かけることがあるので、つい神経質になりそうな話だが、過剰におそれる必要はないものの、AIGがイベントで「日本人が外国とのルールやマナーの違いをどれくらい理解しているか」と指摘するような、異文化ギャップへの理解とリスクへの正しい認識が出発点であり、意識のし始めには1年後という節目はちょうどいいのではないか。

以上、交通問題は専門外ながら一都民なりに感じた所見でした。

新田 哲史   アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」