選挙への関心が薄らぐ世論調査の票読み

正確すぎ興味を失う

参院選は投票率が50%を切るなど、熱気が感じられず、長梅雨、天候異常のせいもあって、投票所になかなか足が向きませんでした。世論調査の予想が2週間前に公表され、安倍政権の1強支配が不動と分かると、選挙への関心も薄れてしまったのでしょう。

自民党Facebookより:編集部

唯一の関心が「改憲勢力2/3割に迫る」(世論調査)になりました。通常、「迫る」は「実現」の可能性が高いことを示唆します。結果は「迫る」と打った新聞は、負けました。与党の過半数維持、立憲民主党の倍増、国民民主党の不振は予想通りでした。

各紙の議席予想は大差がなく、それだけ調査の精度が高まっているのでしょう。投票直前に国際、国内情勢の異変がない限り、予想通りの結果に終わる。有権者は世論調査の正確さを立証するために、投票所にいくのかという虚しい意識なのでしょう。「私の1票が政治を決める」ではなくなりました。

世論調査の問題はもう一つ。政党が自ら世論調査して、有権者が何を望んでいるのかチェックして政策を決めることが多くなっています。政権党は予算の決定権、官僚に対する人事権を握っていますから、自在に大衆迎合的な政策を打ち出してきます。投票所に行かなくても、政策が決まっていく。

世論調査が政治を先取り

その結果、歳出が膨張し、財政危機が進行しても、「自分の時代には表面化しない」と、政治家も有権者も信じ切っています。何を世論が望んでいるのか調査して、政策を決定していくので、有権者は反対するはずはない。投票所で1票を投じなくても、政権党が先回りして決めてしまう。

年金の将来不安が選挙の争点の1つとされました。金融審議会が「年金だけに頼って夫婦が95歳まで生きると、2000万円足りなくなる」との報告書を、担当大臣の麻生氏が「不正確で誤解を与える」として、握り潰しました。選挙の争点にしないから、有権者も投票所にいかない。

さらに安倍首相は「消費税を10%に引き上げたら、後、10年はそのまま」と、発言しました。年金財源はどうするのでしょうか。「経済を強くしていけば、年金を増やしていける」とも強調しました。5年に1度の年金財政検証の公表を選挙後にずらし、その検討結果を待たずに「年金増やせる。消費税も10%で据え置く」と、できないことを首相が口走る。信頼性に欠ける選挙にはいく気がしない。

争点にならない本当の危機

世論や世論調査を与野党とも、選挙で過度に気にするため、選挙から緊張感が失われています。政党はリスクを負って、有権者に働きかけることはしない。今の日本における本当の争点、危機は何かを訴えることはしていません。安倍政権が「経済はよくなっている」といくら強調しても、国際比較した日本の経済力、経済体質は悪化しています。

たとえば「世界的企業の上位150社に入るのは、41位トヨタを含め、たった4社」です。米国企業のGAFA(グーグル、アマゾン、フェースブックなど)が上位をしめ、荒稼ぎをしています。それなのにトランプ大統領は「米国の貿易赤字は大きく、中国や日本は対米黒字を減らせ」と、迫っています。それも「参院選後まで対日案の発表を遅らせる」です。対米摩擦を選挙の争点からはずしたのです。

日本にとって本質的な経済問題はそのほか、「ゼロ金利政策の長期化でマネー市場の金利機能が停止しままになっている」「日銀マネーや公的年金基金を株式市場に大量投入し、官製相場が形成され、自由な相場形成の機能が失われている」「30、40代で貯蓄ゼロ世帯は20%以上。単身世帯の50%が貯蓄ゼロ。資産、所得格差拡大している」などなど。野党もこうした問題を争点にしない。

今度の選挙結果は安倍政権にとってどうだったのでしょうか。「悲願の改憲勢力の2/3割れ」では負け、「与党が改選過半数」では勝ち、「投票率の50%割れ」では負けで、ほどほどの勝利ですか。「過半数で勝ち」といっても、勝敗ラインを低目に置いておいたためです。むしろ野党はどうしようもないほど非力なことが立証された選挙でした。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2019年7月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。