吉本新喜劇に所属する芸人の不適切な闇営業問題は、会社側のトカゲの尻尾切りで終わるかと見えた。だが、宮迫博之氏と田村亮氏の非常に巧みに演出された記者会見に世論の支持が集まり、吉本興業ホールディングスの岡本昭彦社長が、7月22日に記者会見を行い、契約解除を撤回するとかいいだした。それに対して、会長、社長こそ辞めろという声もある。
私も彼らとワイドショーで共演したこともあり、なかなか好感が持てる人物であるのは確かだと思うが、こういうのは、好感度で判断すべきことなのだろうか。
また、ダウンタウンの松本人志氏や明石家さんま氏、さらには反社会的集団との交際が発覚して引退したはずの島田紳助氏までが、登場して仲裁役のような顔をしているのもおかしな話だ。
吉本のなかの派閥闘争に利用されているだけだ。
方向としては、不問に付すのに近いことになりそうだが、それは、数字が稼げるタレントを温存できる吉本にとっても、テレビ局にとっても結構なことなのだろう。いわば焼け太りだ。
たしかに、宮迫氏らを処分することで、終わらせようとするのは不公平感が強いが、吉本にしてもほかの芸能界にしても、闇社会との伝統的なつながりを完全に断ち切れていないのは誰でも知っているのである。
そうしたなかで、大事なのは、その場を切り抜けるためにトカゲの尻尾切りをすることでなく、全体的に良い方向に着実に改善していくことであろう。それは必ずしも厳しければいいというものでない。
逆にたまたま発覚したら軽微でも芸能人としての生命が終わるというのでは、逆に意図的に接近して写真などをとったり少額の金品を押しつけて、それをたねに脅迫するということだって起きてくる。
そういう意味では、テレビ局など、世論の風に乗っておれば火の粉が飛んでこなくて大丈夫という態度でなく、業界の事情もよく知っているのだから、客観的にバランスのとれたかたちで、どの程度のあいだ出演停止にするか、永久追放しかないとか、どうすれば復帰を認めるとか指針を示す側に回るべきなのではないか。
また、表舞台から消えた芸能人が、困った筋のお世話になるようなことのないように、それなりの配慮もないと、いろんな意味で悪循環になるのではないか。
かつて、闇社会とのつながりが深い業界は多かった。江戸時代が典型だが、警察や司法が弱かった時代にはある種の必要悪だったことを現代になっても引っ張っていた面もある。スポーツ界も、政界も、飲食業界も、大企業総務部も医療界だってそうである(医療界ではクレーマー対策で頼りにしていた。昨年もある大学病院が偽診断書を書いて話題になったがその名残だ)。
そういう悪癖から上手に脱出した業界や組織もそうでないところもある。また、闇社会は国際的な陰謀の入り込みやすい場でもある。日本社会も国際化が進むとそういう国際的な闇社会とも戦わなければならないから、そういう方面への対策も必要だろう。
八幡 和郎
評論家、歴史作家、徳島文理大学教授