中国共産党「DNA情報を集めろ」

長谷川 良

仏教開祖の釈尊が「天上天下唯我独尊」と、一人一人が世界で唯一の価値を有した存在だと諭した。無神論で唯物思想を国是とする中国共産党政権はここにきて海外でDNA(デオキシリボ核酸)を集めているという。もちろん、釈尊の教えに倣って、人間の一人一人の価値を認めたうえでの政策ではない。簡単に言えば、世界の70億人の人間をDNAを通じて管理するという野望が隠されているのだ。

▲「逃亡犯条例改正案」の廃案を要求する香港国民(2019年7月5日、UPI通信)

▲「逃亡犯条例改正案」の廃案を要求する香港国民(2019年7月5日、UPI通信)

人間は生まれたときからそれぞれが独自の高分子生体物質DNAを有している。細胞のブルー・プリントだ。事件が発生した場合、犯人を割り出す際に大きな武器となる。これまで迷宮入りしていた殺人事件が最新のDNA鑑定を駆使することで、犯人を探し出すことができたということをよく聞く。

最近ではバチカンの36年前の少女行方不明事件(エマヌエラ・オルランディ事件)で墓を掘り起こしたが空だった。傍にある納骨堂で見つかった多くの遺骨のDNA鑑定が進められている。このコラム欄でもインスブルック大学の法医学分子生物学者、ヴァルター・パーソン教授を紹介したばかりだ。独自のDNA鑑定を開発し、数千前のアイスマンの子孫さえも見つけ出すことができるわけだ(「少女行方不明事件:『墓は空だった』」)2019年7月15日参考)。

そんな可能性を含んだDNA情報に目をつけて必死に集めている国が中国共産党政権だ。海外中国メディア「大紀元」(7月22日)によると、「米捜査局(FBI)や情報戦略家は、中国共産党政権が、世界から収集した遺伝子情報を生物兵器の製造に悪用しかねないとして、危機感を強めている」という。

以下、大紀元の記事の概要を簡単に紹介する。

米上院チャーリーズ・グラスレイ議員とマルコ・ルビオ議員は6月、米国保健省への公開書簡の中で、DNAなどの遺伝子データが、米拠点の遺伝子検査企業などを通じて、中国に渡る可能性に懸念を表明している。

例えば、アイルランドの企業、ゲノム製薬(Genomics Medicine Ireland,GMI)は米国にあるWuXi NextCODE(中国名:明碼生物科技)の子会社で、親会社は上海の「薬明康德新藥開發有限公司」(薬明康德)だ。GMIは40万人のアイルランド市民を対象とするデータベース構築のプロジェクトを実施している一方、WuXi NextCODEと深圳華大基因科技有限公司(BGI)は米国市民のDNAデータを収集している。BGIは2012年9月、米大手コンプリート・ゲノミクス(Complete Genomics)を買収し、数千万人の米国人DNAを管理する同社データベースにアクセスできるようになったという。

米中経済安全保障審査委員会(USCC)は今年2月14日、中国バイオテクノロジーに関する報告の中で、中国側が特定の遺伝子に効果を持つ生物兵器の開発の可能性について警告を発している。USCCの報告によると、「中国との繋がりを持つ遺伝子データ関連米企業はすでに23社に及び、米国において全ゲノム解析など遺伝子診断の業務が認めらている。これらの企業は、米国の病院、クリニック、商用DNA検査企業から入手した患者らのDNAサンプルのデータを、中国本土に解析のために送っている」という。

注目すべき点は、BGIと薬明康德は中国通信大手のファーウェイと遺伝子解析の分野でパートナーシップ関係を結んでいることだ。世界のDNA情報がファーウェイを通じて中国共産党政権の手に渡っている構図が浮かび上がる。

北朝鮮の独裁者、金正恩朝鮮労働党委員長の生体情報について、このコラム欄でも紹介した。金正恩氏の外遊の場合、金正恩氏は通常のトイレでは用を済まさないから、彼専用トイレが必要となる。金正恩氏が普通のホテルのトイレで用を済ましたら、その用を足したものの中に金正恩氏の生体情報が溢れているから、第3者、第3国の情報機関関係者の手に渡ればまずい。尿や便はその人の生体内を通過しているので その人の全ての生体情報が含まれている。金正恩氏に持病があれば、直ぐにばれてしまう(「金正恩氏の『生体情報』は高額」2019年3月16日参考)。

生体情報は本来、コンフィデンシャルで第3者が介入できないはずだが、世界の制覇を目指す中国共産党政権はDNA情報ら生体情報をスーパーコンピューターで管理し、体制に反対する国民を見つけ出し、遺伝子操作でその反体制派を根絶していくわけだ。

中国共産党政権は2014年、「社会信用システム構築の計画概要(2014~2020年)」を発表した。それによれば、国民の個人情報をデータベース化し、国民の信用ランクを作成、中国共産党政権を批判した言動の有無、反体制デモの参加有無、違法行為の有無などをスコア化し、一定のスコアが溜まると「危険分子」「反体制分子」としてブラックリストに計上し、リストに掲載された国民は「社会信用スコア」の低い二等国民とみなされ、社会的優遇や保護を失うことになる、という(「中国の監視社会と『社会信用スコア』」2019年3月10日参考)。

サイエンス・フィクションならば興味深いが、中国共産党政権は真顔で生体情報の管理を目指しているから、恐ろしい。サイエンス・フィクションの世界では、DNAや指紋が残らないアンチDNA指紋の手袋が作られているだけではなく、恣意的に他者のDNAを残す手袋が既にあるという。偽のアイデンティティ作戦だ。いずれにしても、この分野では中国共産党政権は世界の最先端を走っているわけだ。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年7月26日の記事に一部加筆。