児童虐待を防ぐ出産直後の養子縁組

中村 仁

養子を望む不妊の親は多い

京都アニメのスタジオ放火事件で34人が死亡、高齢運転者の暴走事故で母子が命を落とすなど、凄惨な殺人や事故があらゆる次元で多発する時代になってしまいました。その一方で、児童虐待死を防ぐ地道な努力も続けられており、人間への宝物として授けられた幼い命の尊さを教えています。

写真AC:編集部

私が児童虐待死に関心を持ったのは、知人の夫婦が何度か不妊治療を受けながらも子宝に恵まれず、出産直後の幼児を養子縁組の形で迎えたからです。まず順調に育ち、年末には4歳になります。養子縁組を広めているNPO法人のお世話で養子を迎えました。

安易な気持ちで妊娠してしまい、経済的に養育が困難と思った実親がわが子を手離したのです。そのまま養育していれば、親の虐待を受け、命を落としていたかもしれません。この夫婦は実の子に恵まれなかっただけに、恐らくあり余る愛情をふり注いで育てる。この子は幸運な子をいえるでしょう。

それを機会に、児童虐待問題を私のブログの課題の一つにしました。新たな虐待事件が報道されると、過去に書いたブログにアクセスが急増します。「虐待死させた親は死刑か極刑を」「虐待死に殺人罪の適用を。保護責任者義務遺棄なんてあますぎる」を提言する一方、読者からのコメント「子に与えた虐待と同じ虐待を親に体験させよ。同じ苦しみを味わえ」なども紹介してきました。

養子斡旋の申し込み増加

NPO法人は全国にいくつかあり、産院と緊密な連携をしています。養子斡旋の申し込みは相当数にのぼり、斡旋までに1、2年待つことも多いようです。養育を断念する実親を事前に把握できている場合もあれば、産院に突然、駆け込んできた親が生む場合もあります。斡旋の順番が決まると、男女別の希望も聞かれないし、障害のある子が生まれてきたからといって拒否できません。

養親は不安な気持ちを抱きながら、順番を待ちます。NPO法人は養親に周到な教育も施す。生後間もない養子が自宅に連れてこられる時は、すでに養親、養子になっている親子が複数、最寄りの駅に集まり歓迎する。養子にいづれ真実を告知する際は、「あなたもこうして迎えられたのよ。同じ境遇の子はあなただけではない」と、励ますのだそうです。それがその子の生きる力につながる。

児童虐待に対しては、

「児童相談所、自治体、警察の連携の強化」
「児童福祉司の増員(圧倒的に不足)」
「虐待情報があったら48時間以内に担当者による訪問義務」
「虐待容疑に対する甘すぎる刑罰の見直し」
「しつけを口実した虐待を封じる懲戒権の見直し」
「虐待の事実を親が否定できないようする生体鑑定(法医学)の推進」

など、多方面からの対策が必要です。

虐待を受けた子は死に至らなくても、心的外傷を受け、その影響は将来に及ぶ。親が反省したとしても、いつ虐待が再発されるか分からない。実親が刑に服している間、誰が子の養育にあたるのか。施設で保護するにしても、順調に生育していけるかどうか不安が付きまとう。

経済的、精神的に無理なら、出産後、できるだけ早期に養子縁組(正式には特別養子縁組という)を成立させ、赤ちゃんの時から実子同様の育て方をするのがベストでしょう。養子を希望する不妊夫婦は相当数、いるはずなのに、年間500人程度しか成立していません。

この制度を知っている若い女性や男性、あるいは若い夫婦が少ない。制度の存在を知らされても、思い切って相談にいけない。隠しておきたいために、女子高生が学校の敷地に産み落とし、遺体が見つかった。家出などのも問題行為が先行し、親には相談できない。

こんにちは赤ちゃん運動

児童福祉司の経験が豊富で、この分野の著書が多い川崎二三彦氏が近著「虐待死 なぜ起きるのか/どう防ぐか」(岩波新書)を書きました。厚労省が始めた「こんにちは赤ちゃん事業」が発展し、「乳児家庭全戸訪問事業」として法制化されたそうです。「出産後の養育について支援を行う必要がある妊婦に対し、自治体に支援の充実を求めている」と、指摘しています。

「思いがけない妊娠に悩む人の気持ちに寄り添い、電話やメールで相談を受ける妊娠SOSという相談窓口が各地に開設されている。子供の虐待死や遺棄を防ぐことを目的に、全国ネットワークも設立され、活動している」と、いいます。

虐待事件が起きると、児童福祉司に対する批判も起きます。その福祉司は2000年から17年までで2.5倍になったものの、対応件数は7.5倍になり、現場は疲弊しきっているそうです。児童相談所は職員1人につき100件もの案件を抱え、批判ばかり受けるので、職員の定着率がわるいという悪循環です。

事件が起きると、警察の捜査、裁判の行方に関心が集まり、いかに鬼でも目を背けるだろうような親の行為に国民の感情は爆発します。事件が起きてからでは遅く、事件を起こさない環境作りが必要で、その一つが養子縁組で新しい養親の手で育てることです。

養親になりたい不妊夫婦は増え、虐待死する幼児も増えているのですから、この二つをもっと結びつければ、虐待死という地獄に行かずに済む。制度を周知徹底し、制度が活用されることを願っております。元宝塚歌劇団のトップスターが養子縁組でわが子を得たという明るいニュースがありました(19年2月)。こういう話は隠さず、多くの人に知ってもらうことです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2019年7月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。