日産自動車の95%減益発表について、米 フォーチュン誌の見出しが「Nissan’s Results Were So Bad No One Even Mentioned Carlos Ghosn(あんまり酷くてゴーンの名に言及する者さえなく)」というのには笑えた。
西川氏は5月、状況が底打ちしたと発言していたのだから、責任をとらねばなるまい。確かな話は、西川社長に企業経営についてのなんらのビジョンもなく、ただ、ゴーンを追い出したかっただけといわれても仕方あるまい。
それにしても、ゴーンとの権力闘争のためにどれだけの弁護士費用を日産は払っているのだろうか。何十億円単位ではないか?
海外については、検察の捜査のための費用の肩代わりチックなものもありそうだ。これを馬鹿らしいと思わないのか。
次期社長はゴーンに賠償を請求するなら、西川社長にも請求しなくては、それこそ背任になるのではないかと疑う。
25日に発表された人員削減は、全従業員の9%にあたる規模で、生産能力も10%縮小するというのだが、国内では工場の臨時工だけらしい。それでもって国内の正規雇用はそのままというのは、事業全体を縮小したら、本社の仕事も当然に減るのにいかなることか。こういうときは、本社でこそ大胆に鉈を振るうべきだろう。
労組とのなれ合いで国内の正規雇用を守るために、それ以外のところに、不公正に犠牲を押し付けようということになる。日本的経営の負の側面で恥さらしだ。
外国人社員も、非正規の日本人社員も、株主も眼中になく、日本人正社員さえよければいいというのは、極悪非道というしかない。日本の恥ということではないか。
そもそも、この騒動を振り返れば、マクロン大統領は、もう1期だけゴーンにやらせていいが、①ゴーンがいなくても3社のアライアンスが揺るがないような仕組みをつくれ(持ち株会社など)、②後継者を世界中から探せという2点を要求し、それをゴーンは呑んだのだ。きわめてリーズナブルな提案だ。
ところが、それを西川社長に伝えて、日産にとってできるだけ有利なかたちで現実化したいので協力してくれと言ったら、いかなる意味での統合も嫌だと検察とつるんでクーデターを起こしたというだけの話だ。
ゴーンとマクロンの提案した線に沿いつつ、日本政府にも応援してもらって、条件闘争すればよかっただけのことであるし、それはゴーンの望む所だったはずだ。それより日産に好都合なことなどありえたはずもない。
もちろん、フランス政府に対して1期と限定せずにもう少しゴーンに残留させて段階的な権限委譲にして欲しいという運動もあり得たと思う。
そもそも、ゴーンは日産からルノーなら到底認めてくれそうもないフリンジベネフィットを引き出してきたわけで(フランス企業は英米系と違ってこのあたり厳しい)、その見返りに日産に有利なグループ運営をやってきたのである。ルノーが筆頭株主としての権利を持ち分通りに振るうことを制限しているといわれる「RAMA」の内容などルノーは日産・ゴーン連合にまんまとしてやられたわけだ。ゴーンより日産に甘い会長はいるはずないのである。
西川社長は、ゴーンがイエスマンで固める恣意的な人事をやってきたような印象を与えようとしているが、ゴーンの集めたのは、世界のこの業界で通用する人材揃いだ。
韓国の現代自動車は、1月に日産のチーフ・パフォーマンス・オフィサー(CPO)を辞職したホセ・ムニョス氏をグローバル最高執行責任者(COO)にして、米国と中国市場での挽回を図っているのはその一例だ。西川社長が失職しても世界中のどっかの自動車会社がスカウトしてくれるとは思えないのと大違いだ。
そもそも、日産の日本人で国際的な企業経営できる人がいるはずがない。トヨタだってルノー出身の副社長に10億円を超える年俸を払って国際経営をなんとかやっているだけなのだ。早くルノーにお願いしてまともな経営者を選定してもらう以外に再建の方法はないと思う。
いずれにしても、もし、日産の社長が辞めて、ゴーンと和解して復帰してもらえば、少なくとも現状よりはよくなるとしか思えないくらい現状は悲惨だ。少なくとも後先考えずにゴーンを斬って波頭荒れ狂う荒波に乗りだしたのも馬鹿げているし、それから、これまでの行動もなにをしたいのかさっぱり見当が付かない。
かなり賢明な選択と言われたフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)とルノーとの合併も、日産が潰した形だ。
八幡 和郎
評論家、歴史作家、徳島文理大学教授