WTO途上国優遇も除外?瀕死の中韓にトランプが追い打ちラリアット

高橋 克己

米中貿易協議再開を間近に控えた7月27日、トランプ大統領が「世界で最も裕福な国々がWTOのルールを回避して特別扱いを受けている」のを改革させるようUSTRに指示する文書に署名したとツイートしたところ、中国がこれに猛反発した。図星を指されて逆上するのは後ろ暗いところがあるからに違いない。

Gage Skidmore/flickr:編集部

文書には中国だけでなくトルコ、メキシコ、韓国、UAE、カタールなどの名が挙げられていて、制度の見直しが90日以内に進展しなければ、米国は、不当に発展途上国と自己申告して優遇措置を受けているWTO加盟国を発展途上国として扱わず、あらゆる手段を用いて「確実にWTOの制度を改革させる」とあるとのこと。

中国は目下、米国が仕掛けた貿易戦争に七転八倒の体で、ここ数年6%台の後半を維持してきた経済成長率が、この4-6月期はとうとう6.2%に落ち込んだ。米国の攻勢が確実に効いていると見るべきで、右肩下がりの自動車やセメントの生産統計などから既にゼロ成長ではないかと見る専門家もいる。トランプはこの件でも急がない構えだ。中国は相当つらかろう。

韓国も昨年6月から景況判断指数が分かれ目の100を15ヵ月連続で下回り、8月の80.7は「世界的な金融危機のピークだった2009年3月(76.1)以降で最も低かった」そうだ。そこに日本の優遇外しが加わり、WTOの途上国優遇まで止められては大変と、このところ政府批判がめっきり減った朝鮮日報は「通商までコーナーに追い詰められた韓国、米国がWTO途上国優遇の中断を求める」との見出しで次のように報じた。

米国は▲OECD加盟国または加盟手続きを進めている国▲G20の構成国▲世界銀行による分類で高所得国(2017年現在で1人当たり国民総所得1万2056ドル以上)▲世界の貿易量で0.5%以上を占める国--という4つの基準に1つでも該当すれば、開発途上国には当たらないとの主張だ。韓国は4つの条件全てに該当する。

通商専門家は「韓国が日本のホワイトリストから除外される場合、半導体だけでなく、かなりの産業で全方位的に大きな打撃を受ける」とし、「こうした状況で世界貿易の面でも『開発途上国の地位喪失』という渦に巻き込まれれば、四面楚歌の状況に陥る」と指摘した。

日頃は日本軽視の根拠にしている指標が、今度は米国からターゲットにされる条件になるのだからお気の毒としか言い様がない。が、そもそもこれまで途上国面をしていたこと自体がおかしい上、不必要に面子を重んじる中韓が、事この種の損得話になるといともアッサリとそれを捨てるのも、日本人にはないメンタリティーだ。

さて、その途上国優遇措置とは、GATT(関税と貿易に関する一般協定)を引き継いで1995年に発足したWTOが、貿易を通じて途上国の経済開発を促進するために設けた「特別かつ異なる待遇」(Special and differential treatment:S&D)のこと。その地位を得ると、補助金や関税での規制の緩和措置など150以上あるS&Dの規定が受けられる。

要するに途上国は、先進国と同等の自由化を実施しなくとも先進国の自由化措置を享受できる。例えば一般特恵関税制度は、途上国の輸出増大を図るために先進国が途上国の産品に対して一般の関税率よりも低い特恵税率が適用される。つまりはGATTの原則である無差別主義に対する例外が正当化されている訳だ。

従って、これらの優遇を提供する側の「先進国」とその恩恵を受ける側の「発展途上国」が存在するのだが、問題は恩恵を受ける途上国の明確な定義がなく、途上国であるかどうかの判断は各国の自己申告に依っていること。どう考えても、GDP世界第2位の中国や同12位で一人当たりのGDPが3万ドル超の韓国が発展途上国とはおかしな話だ。

そこで中国の言い分を見てみよう。中国日報や環球時報の英語版がここ数日報じていることは次のようだ。(いずれも拙訳)

2018年の統計によると中国の人口は米国の4倍以上。・・米国の一人当たり所得は中国のそれより6.38倍多い。・・(中国の)産業構造は依然として先進国と比較して大きな格差を示している。さまざまな事実から判断すると、中国は依然として世界最大の発展途上国である。(7月29日の中国日報

確かに、中国は世界第2位の経済国となっているが、それはまた発展途上国でもある。中国の一人当たりのGDPは2017年の米国の15 %であり、それは極端な貧困にまだ住んでいる1000万人以上の人々との顕著な不均衡な発展問題を抱えている。(7月29日の環球時報

人口が多くて困るなら、チベット自治区300万、新疆ウイグル自治区2200万、内蒙古自治区2500万、広西チワン自治区4600万そして香港740万などを切り離してはどうか。中国共産党の強圧政治から独立したいのではないか。ただし、多くの共産党幹部らが不正に得たとされる、本来貧困層にも回るはずの数百兆円規模の裏金が海外に移されているような社会は確かに発展途上国のそれかも知れぬが。

これまでも米国は日本やEUと共にWTOの規則変更や政府補助など中国の非通商慣行の停止を求めて来ているが、WTOはいかなる制度改正も164加盟国全ての合意が必要な仕組みとのこと。また本当の発展途上国や小国にとっては、WTOの威を借って影響力を行使する以外に大国による圧力を軽減する手立てがないことも事実だ。

とはいえ途上国が多様化する中で、先進国と途上国だけの二分法には無理があろう。求められるのは、例えば米国が示した上述の4項目(勿論、議論して中身を調整しても良い)に該当するような国は、進んで優遇国の自己申告を取り下げることだ。都合の良い時だけ途上国面されるのは「NO more!!!」だ。

高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。