無給医という制度は若い医者に気の毒だから止めろという声が強くなっている。たしかに、法的に不明朗な制度だから改革が必要であることは間違いない。
しかし、この議論は、どうも医療業界が世論を騙して同情を引き出し、自分たちの利益をあくどく図っているとしか私には見えない。
私は医学部の偏差値が他学部並みにならないと日本の経済も社会も絶望的な将来しかないと思っている。日本の平均寿命はいまも世界トップクラスであって、これ以上余計に資源を投入して力を入れるべき分野とは思えない。
このまま放置すれば、日本はますます、経済の力は低下して、長寿化ばかりが進み、高齢者福祉の負担に若年層は押しつぶされ、老後の生活の質は急速に悪化して行かざるを得ない。
GDPが増えず寿命だけ伸びれば、日本人の老後の生活の質がほかの国より低水準であることも、年金システムや医療・介護システムも財政も成り立たなくなっていくのは当然なのだ。
ところが、いま日本は世界でもっともIT技術者の需給バランスが悪い国だとされている。しかし、現実には優秀な理科系人材は医学部にますます集中する傾向にある。こうしたなかで、医師の経済待遇をさらによくするのは愚の骨頂である。待遇を悪くして、有能な人材をニーズの高い分野に誘導すべきなのである。
そういうなかで、そうでなくとも他の仕事より恵まれて美味しい職業である医師という職業をますます不均衡に優遇するのはまったく愚劣である。
であれば、もし、無給医の制度が不合理なら、有給の医師や開業医などほかの医師の収入を減らして、無給医にまわせばいいだけだ。無給医が高額の報酬のアルバイトで生活を成り立たせているというが、他の職種では、そんな高額の収入を伴うアルバイトなんて滅多にない。また、常勤として給与を支払っているならそんなアルバイトすることなど認められない。場合によっては、私立病院が後輩にアルバイトの機会を提供して、大学などとの関係をよくするようにしていることもある。
無給医に給与を出すなら、その分、その病院での有給医の給与を減らせばいい。あるいは、若いときにこれまで無給だったのが有給になれば、将来、開業したときに経済的に余裕が出るわけだから、開業医の診療報酬を減らしてもいいはずだ。
私が主張したいのは、間違っても、そうでなくとも恵まれている医師を社会的に不均衡にさらに恵まれたものにするのでなく、また、健康保険会計や患者に負担をかけるのでなく、医師の世界の収入分配の操作で問題を解決して欲しいと言うことだ。
ひとことでいえば、
八幡 和郎
評論家、歴史作家、徳島文理大学教授