総合取引所はやっと発足に向けたスタートラインに立てた

日本取引所グループ(JPX)が東京商品取引所(TOCOM)を約55億円で買収する合意が成立したことが30日、発表された。当初6月末に予定されていたが、買収金額で折り合いがつかずに遅れていると言われていた。予定より1か月ほどずれ込んだことになるが、これでやっと2020年度上期に総合取引所が発足できる。

東京商品取引所サイトより:編集部

しかし、これはまだやっとスタートラインに立っただけであり、これから急いでTOCOMの上場商品をJPXの大阪取引所に移管するなどの作業をしなければならない。

その過程で、まず第一に留意すべきは、現在極めて薄くなっている市場の厚みを厚くするように各種の制度設計をすることだ。2000年以降世界の主要な取引所は取扱高を大きく伸ばす中でTOCOMの取引高は減少し、今では大きく水をあけられている。この状況をいかにして挽回するかが問題であって、これなくしては総合取引所を作っても赤字をTOCOMから引き継ぐだけに終わってしまう。

この点については、アメリカのCMEにしてもICEにしても、当業者と呼ばれるデリバティブの裏側にある原資産の供給者や需要者だけでなく、ファンドをはじめとする金融機関が取引に多数参加することによって市場の厚みが増していることを参考にすべきだ。総合取引所の発足に合わせて、日本や外国の金融機関が、その営業力で海外の金融機関を始めとする大口投資家のお金を引っ張ってくることが期待される。

そしてこれに関していえば、上場商品の呼び値を円建てではなくドル建てにすると、海外の投資家はより総合取引所を使いやすくなるだろう。商品は日本企業の株式と違って基本的にグローバルな性格を持っており、金はニューヨークでもロンドンでも香港でも日本でも、同じ金だから、日本企業の株のように円建てでも海外の投資家が投資してくれるものとは性格が違う。

一方、個人投資家については、総合取引所では投資家保護を今以上に徹底する必要があると思っている。これまでの商品相場の歴史を振り返ると、強引な営業などで大やけどを負って退場していった個人投資家は数知れず、これが商品相場は怖いものという印象を個人投資家に植え付けて市場から遠ざけてしまった面もある。現在の市場の状況は、商品によっては流動性が乏しいものも多く、それを悪用して相場操縦をすることも不可能ではない状況にある。今後金融庁としては、市場の監視をしっかりとしていただきたい。

また、現在の商品相場のレバレッジは、例えば金では約50倍以上のレバレッジとなっており、不慣れな投資家や大胆過ぎる投資家は大きな損失を被る可能性がある。FX取引が現在25倍のレバレッジとなっていることに鑑みれば、商品のデリバティブも25倍にレバレッジを抑える必要があるのではないかと思う。

なお、すぐに実現できることではないだろうが、個人投資家にとっては所得税制の面で株式の譲渡益に比べて商品デリバティブの譲渡益は不利な扱いとなっているので、これを是正する必要があるだろう。株式の譲渡益は源泉分離課税で20%ちょっとの税率ですむ一方、商品デリバティブの譲渡益は雑所得として総合課税され、損益通算も雑所得内でしかできないなど、不利な扱いとなっている。

いずれにしても、冒頭述べた通り、総合取引所の開設はやっとスタートラインに立ったばかりであり、これからJPX、TOCOMそして金融庁の奮闘を期待したい。

有地 浩(ありち ひろし)株式会社日本決済情報センター顧問、人間経済科学研究所 代表パートナー(財務省OB)
岡山県倉敷市出身。東京大学法学部を経て1975年大蔵省(現、財務省)入省。その後、官費留学生としてフランス国立行政学院(ENA)留学。財務省大臣官房審議官、世界銀行グループの国際金融公社東京駐在特別代表などを歴任し、2008年退官。 輸出入・港湾関連情報処理センター株式会社専務取締役、株式会社日本決済情報センター代表取締役社長を経て、2018年6月より同社顧問。著書に「フランス人の流儀」(大修館)(共著)。人間経済科学研究所サイト