トランプ氏の「イラン政策」の深読み

長谷川 良

トランプ米政権は核合意を違反するイランに対して制裁を課す一方、世界の原油輸送ルート、ホルムズ海峡の安全な航海を守るために有志連合を結集し、イラン包囲網の構築に乗り出している。

イランと2か国交渉を目指すトランプ米大統領(米ホワイトハウス公式サイトから)

トランプ政権は先月31日、核合意のイラン側の立役者ムハンマド・ジャヴァド・ザリフ外相に制裁を課し、同外相の米国内で保有している全資産を凍結すると発表した。同外相が米国内に巨額の資産を保有しているとは思えないから、イラン外相への制裁はあくまでも政治的な圧力を狙ったものであることは明らかだ。

一方、米国主導の「有志連合」構想では、英国やフランスはいち早く同意し、参加を表明したが、欧州連合(EU)の盟主であり、イラン核合意のEU締結国の一国、ドイツのマース外相は31日、「ドイツは有志連合には参加しない。ホルムズ海峡周辺の緊張を一層高める危険性があるからだ。わが国は外交ルートを通じて解決を目指す」と述べている。

北大西洋条約機構(NATO)加盟国・ドイツの有志連合不参加は米国のイラン包囲網構想にとって痛手となる、と一部で受け取られている。確かに、欧米の結束でイランに圧力を行使したいトランプ大統領にはドイツの反応は歓迎できないだろう。

トランプ大統領はこれまでホルムズ海峡の安全航海は世界経済にとっても死活問題だとして同盟国に有志連合参加を呼び掛けてきた。トランプ大統領はジョンソン英首相やマクロン仏大統領と会談を続け、有志連合の重要性を協議してきた。日本にも有志連合の参加が打診されたが、日本側はこれまで何も決めていない。

興味深い点は、韓国は米国の参加呼びかけに直ぐに快諾し、トランプ氏を喜ばせた数少ないアジアの国だ。韓国の狙いは、憲法の関係で海外に軍を派遣できない日本との相違を浮き彫りにさせ、輸出優遇国「ホワイト」国から韓国を除外した日本に対し、トランプ氏が韓国側の意向を尊重して圧力をかけてくれることにある、といった深読みも聞かれる。

ところで、有志連合の結成がスムーズにいかず、欧州3国でも立場の相違が出てきたことは、トランプ氏を本当に失望させているだろうか。トランプ政権はドイツが有志連合に参加しないことを前もって予想していたはずだ。欧州の3国(独仏英)は決して一枚岩ではないからだ。トランプ氏はイラン核合意の維持を主張する欧州3国の結束を崩す狙いもあって、有志連合の参加を呼び掛けたのではないか。現状はトランプ氏が願っている方向に向かってきたわけだ。

トランプ政権は外交では多国間交渉を嫌い、2カ国間交渉に拘る。国連、EUそしてNATOなど多国間協定や組織に対してトランプ氏は懐疑的だ。米国と関係国との2カ国間でディ-ルを好む。イラン核問題でもトランプ氏の本音はイランと米国の2カ国間の交渉だ。イラン核合意の締結国(6カ国)が参加した多国間交渉にはあまり乗り気ではない。そこでEU3国の結束を崩す狙いから有志連合という構想を打ち上げたのだろう。

多国間交渉では米国の国益は譲歩を強いられることが多いが、2カ国間交渉ではそれぞれが国益を正面からぶつけ合うから、会談が暗礁に乗り上げる危険性がある一方、双方の利益が明確になることで、ウィンウィンの妥協が実現することもある。

2カ国間交渉では米国のパワーをフルに発揮できるが、多国間ではそうはいかない。中途半端は妥協を強いられる。トランプ氏の目には、イラン核合意は13年間の外交の成果というより、米国の思惑や国益が薄められた妥協案に過ぎないから、核合意から離脱することに全く躊躇しなかったわけだ。

同じことがトランプ氏の朝鮮半島政策に言える。北の核問題は6カ国協議で解決を模索するのではなく、米朝会議で話し合って決めたいわけだ。

トランプ氏はイラン核協議ではロウハニ大統領との米・イラン首脳会談の開催を目標としているはずだ。イランもEU3国の立場に相違がある以上、EUとの約束が実行されないと分かれば、トランプ氏の2カ国協議申し出に応じる可能性がでてくる。

トランプ氏は北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長を「私の友達だ」と呼んでいるが、ロウハニ大統領に対しても近い将来、ツイッターで「あなたは私の最も信頼できる友達だ」と発信する日がくるかもしれない。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年8月4日の記事に一部加筆。