米中南部で4日未明にかけ、2都市で銃乱射事件が起き、計29人が死去した。米南部テキサス州エルパソのショッピングモールで21歳の白人、パトリック・クルシウス容疑者が半自動小銃を乱射し、20人が死亡、26人が負傷した。クルシウス容疑者は、犯行直前にヒスパニック系移民への憎悪を記した声明をインターネットに出し、「一人でも多くのヒスパニックを殺したい」と叫んでいたという。エルパソはメキシコ国境に近く、ヒスパニック系移民が多数住んでいる地域だ。
その13時間後、米中西部オハイオ州デートンのナイトクラブやバーなどが集まる繁華街で24歳の白人、コナー・ベッツ容疑者は銃を乱射し、9人が死亡、27人が負傷した。容疑者は地元警察に射殺された。死亡した9人の中に容疑者の妹(22)が含まれていたという。ベッツ容疑者の犯行動機は不明だ。エルパソとデートンの2件の銃乱射事件の関係なども調査中だ。
CNNで現地からの中継を追っていた。番組関係者の1人が「エルパソのヘイトクライムはワシントンがもたらした」と述べ、ヒスパニックなど少数民族の不法難民対策を進めるトランプ大統領こそ憎悪犯罪を煽った張本人だと強調していた。
トランプ氏は先月、議会のヒスパニック系議員やアフリカ系議員に対し「出身国に戻ればいい」と中傷するツイートを発信し、同時に「メキシコ国境に壁を建設し、不法な難民を入国させず、米国内の不法難民を追放する」と表明したばかりだ
トランプ氏の度重なる民族主義的な発言を想起すれば、「トランプ氏は憎悪犯罪を誘発した張本人だ」という批判に対し、反論は難しい。米大統領の発言となれば、本人の意向とは関係なく、大きな影響を及ぼすことは避けられないからだ。
米民主党はエルパソの憎悪犯罪がトランプ氏の憎悪発言に大きな影響を受けたと早速批判。一方、トランプ氏は4日、「如何なる憎悪犯罪も許されない」と非難するだけにとどめ、具体的な対策には言及しなかった。トランプ氏はここ当分、自身の発言の弁明で守勢を余儀なくされるだろう。
ところで、憎悪は非常に感染しやすい感情だ。その感染力は想像を超えている。当方はこのコラム欄でも韓国が慰安婦像、少女像を海外で設置する動きに対し、「憎悪の輸出は危険だ」と警告し、「どのような言動も、憎悪から発したものは決して良き実をもたらさない。サムスンのスマートフォンや現代自動車を輸出するように、韓国は慰安婦像という憎悪を輸出すべきではない」と書いた(「韓国は『憎悪』を輸出すべきではない」2014年1月20日参考)。
憎悪犯罪は米国や韓国だけではない。ドイツでも与党所属の政治家が暗殺されたばかりだ。独中部ヘッセン州で6月2日、リュブケ県知事(65)が自宅で頭を撃たれ倒れているのを発見され、収容先の病院で死亡した。犯人は極右過激主義者とみられている。
同知事はドイツ与党「キリスト教民主同盟」(CDU)に所属、難民収容政策では難民擁護の政治家として知られてきた。事件は同知事の難民擁護に関する発言がきっかけとなったと受け取られている(「極右過激派殺人事件に揺れるドイツ」2019年6月28日参考)。
人は愛を大切にする。愛は、ドラマの主要テーマであり、愛のために命を捧げる人も出てくるほど、パワーを有している。同じように、憎悪も大きなエネルギーを持っている、その感染力は愛を凌ぐほど強い。最近の憎悪犯罪の増加はそのことを裏付けている。
当方が今、最も心配しているのは反日を政治道具として憎悪を煽る文在寅政権だ。憎悪に煽られた人間が現れ、蛮行に走る危険性が排除できなくなるからだ。憎悪、反日を政権の支持率を上げる手段に悪用することは余りにも危険だ。
「憎悪」という悪魔を野に放つと、どのような結果をもたらすか分からないのだ。最悪の場合、文大統領はその責任を負わざるを得なくなるだろう。繰り返すが、憎悪を弄ぶことを直ぐに止めるべきだ。米国とドイツの最近の憎悪犯罪を教訓とすべきだ。
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「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年8月6日の記事に一部加筆。