またも破られた静寂:原爆の犠牲者を冒とくする「アベ、帰れ」

椋木 太一

こんにちは、広島市議会議員(安佐南区)のむくぎ太一(椋木太一)です。

広島は8月6日、74回目の「原爆の日」を迎えました。
私は、広島市中区の平和記念公園で開催された「平和記念式典(広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式)」に、広島市議会議員として参列させていただき、原子爆弾の犠牲になられた御霊に祈りを捧げてまいりました。

平和記念式典開始前、会場近くにて(筆者撮影)

先日、アゴラで述べさせていただいたこと(「8.6 広島平和式典の喧騒:「アベ帰れー」のデモは表現の自由か?」)が、今年もまた繰り返されてしまいました。デモ団体が式典の会場近くで拡声器を使って大音量で叫びまくり、式典の雰囲気をぶち壊したのです。

原爆が投下された午前8時15に、参列者による黙とうが始まりました。それに合わせるように、何やらけたたましい大声が響き始めました。また、大声に呼応するように、何かを打ち叩いている音も鳴り響きます。1分間の黙とうに続き、松井一実・広島市長が「平和宣言」を読み上げ始めると、音量は徐々に大きくなってきました。

令和初の平和式典で挨拶する安倍首相(官邸サイトより:編集部)

この時、雨脚が強くなってきたこともあり、叫んでいる文言までは判別できませんでした。しかし、耳にして楽しくなるような雰囲気のものではありませんでした。そして、安倍晋三総理が午前8時30分ごろから挨拶をはじめると、一団のコールの音量は最大に達していたように思います。(ツイッターで動画もアップしました)

前日の通り、アゴラやツイッター上で、私が拡声器の音量を規制する条例制定に向けて尽力する決意を述べたところ、式典の最中に大音量で「アベ、帰れ」などと叫ぶことについて、「安倍は(式典に)ふさわしくない。『安倍帰れ』を代弁していただいて感謝している」「安倍にしゃべらせておくのは広島の恥」などとのご意見を頂戴しました。

私の決意に対しての批判、あるいは、条例による規制へ反対意見をする方々は、犠牲者を悼むという視点が全く欠けているという印象を受けました。

もちろん、「表現の自由」は民主主義の根幹をなす重要な権利であり、これを否定する気は毛頭ありません。時と場所、手段をわきまえてほしいのです。追悼式を挙行中の安倍総理の言葉をかき消さんばかりのコールは、総理だけでなく、原爆の犠牲者を冒とくするものにほかなりません。だからこそ、広島市が昨年12月に行った市民アンケートで条例によって規制することに対して、70%が肯定的な意見を示したのだと思います。

平和記念式典の参列者の多くにとって、式典の場は、1年に1度、犠牲者と「再会」できるところなのです。「表現の自由」には、静謐な環境で死者を悼む機会を壊すことまで保障しているとは到底、思えません。

条例制定によって、犠牲者ならびに遺族、そして、広島の心を守る――。74回目の原爆の日に、改めて固く決意させていただきました。

むくぎ(椋木)太一  広島市議会議員(安佐南区、自由民主党)
1975年、広島市生まれ。早稲田大学卒業後、出版社勤務などを経て2006年、読売新聞西部本社に入社。運動部記者時代はソフトバンクホークスを担当し、社会部では福岡市政などを取材した。2018年8月に退職し、2019年4月の広島市議選(安佐南区)で初当選。公式サイトツイッター@mukugi_taichi1