フコダインが「がんに効く」と称して販売していた健康食品会社の幹部が逮捕されたというニュースがあった。原価3000円を50000円で販売していたようだ。とんでもない話だと思う。NHKのニュースキャスターが最後に、こんなペテンに騙されないために、「主治医に相談しましょう」「厚生労働省のホームページで調べましょう」とニュースを締めくくった。
心の中で「アホか、君たちは!」と叫んでしまった。がん拠点病院でちゃんとした説明を受けることもできず、主治医に冷たくあしらわれた患者さんやその家族が、「藁にも縋る思い」でネット検索し、救いを求めている実情をどこまで理解しているのだ。ウェブを見てどうするのだ。あなたたちの周りには、がんで苦しんでいる人や悩んでいる人は皆無なのか。「厚生労働省や国立がん研究センター」のウエブページを見ても救いがないから、変な方向に誘導されているのだ。
当然ながら、厚生労働省のウェブを見て、保険診療や臨床試験でカバーされるなら、誰も高額な費用を支払う必要はないのは、自明のことではないのか?あまりにも世間知らずのありきたりのコメントに腹が立って仕方がない。高い受診料を取るなら、もっとまともなコメントをしたらどうなのか?わけのわからない政党が議席を獲得したのも頷ける。
最近、患者さんの相談が増えてきた。「緩和ケアを勧められた」が私は普通の生活をしている。それなのに死ぬのを待つだけなのか?パソコン画面の画像と数字を見るだけで体に触れることもない。家族が主治医に見捨てられたと落ち込んで、食事もとれない。こんな声が日々追いかけてくる。これが珍しい状況でないのが、がん医療の現状である。
「国で提供できるものがなくなれば、あきらめるしかない。それでみんな平等に死んでいくのはいたしかたない」と言っていた医師が国の機関の中枢にいる。「これでいいとは思わないが、これを受け入れるしかない」と言っては私らしくないが、自分の限界も見えてくる昨今だ。
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2019年8月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。