小泉、滝クリ結婚狂騒が生み出す政局の新たなシナリオ

新田 哲史

小泉進次郎衆議院議員と滝川クリステルさんの「おめでた婚」は、ビッグカップル誕生のインパクトがあるだけでなく、どこのメディアにも事前に報道されず、サプライズ効果を一層大きくしたといえよう。NHKですら速報も含め大きく報じた。デイリー新潮やアゴラで、小泉氏や小泉事務所、彼のブレーンの巧みなメディア戦略を批判的に分析してきた筆者も、今回ばかりは、その徹底した情報管理に逆に感心させられてしまった。

NHKニュースより引用

「劇場型結婚」の思惑を読み取るべし

しかし、だからこそ、そのメディア巧者ぶりの思惑を読み解く必要はある。そして昨日の各メディアの報道で好感を持てたのが朝日新聞の分析記事だ。お祝いムード一色のスポーツ紙の報道と一線を画しているのは、やはり安倍政権とことごとく対立してきた「アンチ」らしさをいい意味で発揮している。

その日のうちに電子版で報道してくるとは予想外のスピードで、正直、筆者としては先手を打たれて少し悔しさもある。取材・執筆した真野啓太、田中聡子両記者は、文化くらし報道部所属のようで、政治部記者にはない視点を感じた。

首相官邸で発表なぜ? 小泉流「劇場型結婚」との指摘も:朝日新聞デジタル

前代未聞の官邸での発表など、まさにこの見出しにある「劇場型結婚」というフレーズが見事に当てはまる。これは元毎日放送プロデューサーの影山貴彦・同志社女子大教授のコメントから取ったものだが、

「週刊誌に結婚をかぎつけられる前に、昼間のワイドショーの時間を狙って一斉に情報を発信したように見える。すべて計算ずくだったのではないか」

という指摘は元テレビマンらしい鋭さで筆者も全面同意だ。官邸のアポ取りは当日とされ、偶然という可能性は排除できないものの、かの小池百合子氏も情報番組の生中継ジャックを意識したメディア戦術は巧みであり、小泉氏や周辺ならそれくらい織り込み済みだ。影山教授は、小泉氏の動きを「あざとい」とも評しており、シビアな見方は筆者とかなり近いようだが、

「最近の視聴者は、彼の計算高さを理解した上で、今回のニュースを楽しんでいるのではないか」

とコメントしているのを一読した際には笑いを浮かべてしまった(太字は筆者)。スマートなイメージ構築を徹底化する、政界名うてのブランディング志向の塊である小泉氏や事務所の思考回路を見抜いたようなコメントは実に秀逸だが、しかし、影山氏が言うほど一般の有権者の大半はそこまで深堀りはすることなく、スポーツ紙や週刊誌を中心としたお祝い報道一色に流されていくだろう。

慶事として大きいインパクト

長らく独身生活を続けてきた政界のプリンスと、著名なフリーアナウンサーによる交際時点の情報なしでの突然の結婚&妊娠発表という劇的効果は、これからじわじわと効いてこよう。ここのところ、政治関連の報道は、れいわ新選組が仕掛けた障害者議員の問題や、大炎上した「表現の不自由展」の問題で著しい論争を巻き起こすものばかりで、ネット上も「分断」が進み、ワイドショーも積極的に取り扱いたくなるような話題ではなかった。

しかし、この「小泉、滝クリ」結婚報道は慶事としてのインパクトが大きく、論争になった問題を「上書き」するだけの効果が相応にある。そして、政局の流れを変えるだけの力も十分にある。

昨日の報道では、安倍首相も菅官房長官も当日になって知って驚いたという「ストーリー」になっているが、これが事実にせよ、あるいは多少“盛った”にせよ、厳重な情報統制からすれば官邸首脳が把握したのも比較的最近であろう。そして、今回の突然の慶事は、安倍首相にとって、報道の論調の動きや、世論の受け止め方に与える大きな「切り札」を新たに手にしたようなものだ。

高まる初入閣への期待

復興政務官時代に福島県のイベントに出席した小泉氏(復興庁サイトより)

次のポイントは9月に予定される内閣改造・党幹部人事だ。新婚ほやほやの小泉氏がどのようなポジションで起用されるのか、俄然注目度は高まり、気の早い週刊誌やタブロイド紙などからは「初入閣」の観測報道も増えるだろう。

仮に初入閣となると、無任所かつ話題性のある特命大臣は現実的だろう。たとえば片山さつき氏が務めているポジション(地方創生担当、規制改革担当、男女共同参画担当)は一定の親和性はある。

小泉氏は過去に復興政務官を務めており、農政もコミットしてきた経験から地方創生分野は明るい。新婚で父親になるタイミングでの男女共同参画政策を手がけ、規制改革も若く知名度のある小泉氏が任に当たるとなれば、長期政権の停滞感を打ち消したフレッシュなイメージを打ち出せる。

問題は本人が受ける気があるかどうか。小泉氏は副大臣の経験はなく、過去にも官邸からの入閣打診を断ったとされる。年齢的には若いのは確かだが、初当選から今年でちょうど10年と節目ではある。過去には野田聖子氏が小渕政権で郵政相に就任し、いまの小泉氏より1歳下の37歳で当時史上最年少の入閣を果たしている。

ぶち上げた国会改革構想も一部しか実現の目処が立たず、小泉氏にとってもそろそろ「実績」が欲しい時期で、参院選で憲法改正の発議に必要な3分の2を割ってしまった安倍首相と“利害”は一致する。

安倍首相の解散戦略にも影響?

もし小泉氏が初入閣となれば、メディアは一挙手一投足を追いかけ、連日報道するだろう。何か政権与党の不祥事がない限り、野党の露出はかすむ。内閣支持率がそれなりにアップするとなると、安倍首相の解散総選挙の日程算段にも当然影響を与える。

オリンピック前の解散が難しいとされる原因の一つが、消費増税の経済に与える影響だが、もし政権が小泉氏の初入閣効果もあって再浮揚することに成功すれば、各種景気指標にマイナスの数値が露骨に出てくる前、そして野党の選挙体制が整う前に「勝負所」を見極める展開にはなりはしまいか。

「一寸先は闇」の永田町であまり先のことを占っても詮無きことではあるが、「小泉、滝クリ結婚狂騒」が闇を照らす光となって、新しいシナリオを生み出す可能性は十分にある。

新田 哲史   アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」