学生の“内定辞退率”を企業に提供したら何がどう問題なの?と思ったときに読む話

城 繁幸

今週のメルマガ前半部の紹介です。「リクナビ」を運営するリクルートキャリアが、学生の求人閲覧情報などの個人情報をベースにAIを活用して内定後の辞退率を予測したデータを企業に提供していたことが発覚し、波紋を呼んでいます。

【参考リンク】リクナビ「内定辞退率」提供、人事は「のどから手が出るほどほしい」

学生への説明が十分ではなかったと個人情報保護委員会から指摘されたため現在はサービス休止となっています。※

同意を得ずにサービス利用者の個人情報を一方の利用者である企業に有償で提供することは論外ですが、本件は日本の就活市場を象徴するような出来事だというのが筆者の率直な印象です。

また、そこに目をつけて有償サービス化しちゃうリクルートは本当に商売上手だなと思います。というわけで、今回は内定辞退率サービスから見えてくる就活の裏側についてまとめておきましょう。

実は双方にメリットのある内定辞退率サービス

人手不足による売り手市場の過熱化により、内定辞退問題は企業にとって頭痛の種となっています。

「人気業種で業界首位の大企業」なんかだと辞退なんて下々の問題にすぎないかもしれません。でも大手であっても業界5番手以降なら辞退で内定者3割減なんて普通ですし、無名の新興企業や中小企業なら内定者の8割辞退なんてことも珍しくない状況です。

といって内定を乱発しすぎても内定取り消しなんて普通は出来ない(やったらニュースになってバッシング発生)ので、そうした企業の採用責任者は頭がハゲるほどに懊悩することになります。

ほとんどの企業の採用責任者は、こう思っています。

「応募者が内定辞退する確率がわかりさえすればこんなに悩まずに済むのに!」

はっきり言ってこのリクルートのサービス、精度が上がってある程度辞退率が見えるようになったら、ほとんどの日本企業が導入すると思いますね。それくらい就活においては企業の方が学生より力関係が弱いんです。

学生は入社するまでいつでも辞退可能な一方で、企業は内定後は入社させて65歳まで面倒見ないといけないという変則的な契約関係ですから。

「でもそんなことしたら学生が困るだろ!」と思う人もいるかもしれません。結論から言えば、辞退率が数値化されることで学生も企業の側も誰も困りません。なぜかというと、“辞退”という無駄な工程が減ることで全体の生産性が上がるからです。

たとえば、超優秀なAさんとまあまあ優秀なBさんがある企業の枠1名の選考を受け、ともに「御社が第一志望です」と申告したとします。普通の採用担当なら迷わずAさんに内定を出し、Bさんにはお祈りメールを送ることでしょう。

ただし、Aさんが内定を辞退した場合、企業は採用活動を延長してあらたな求職者を集めねばなりません。おそらく採用できたとしてもAさんどころかBさんレベルの人材確保も難しいはずです。

もし最初から「超優秀なAさんに内定辞退率90%」「普通に優秀なBさんに内定辞退率10%」という数字がついていたらどうでしょうか。筆者の感覚ではほとんどの企業は最初からBさんに内定を出すと思います。

Bさんはめでたく第一志望の会社に入社でき、企業は辞退を防いで採用担当はさくっと秋休みが取れ、双方ハッピーな結果となるわけです。

Aさんですか?内定辞退率90%のAさんにとって最初からこの会社は肩慣らし程度の存在だったわけで落とされても屁とも思っちゃいないでしょう。「第一志望です」って言わないと内定がもらえないルールなので仕方なくそういっただけで、本音では第6志望くらいだったはずです。

AIを活用したスコアリングは金融機関の融資などで既に実用化されていますし、HR分野でも従業員の配置や離職抑制で導入が始まっています。それで「個人情報が悪用されて不利益を被った!」なんて騒いでいる人はいませんよね?

内定辞退率予測も同じことで、今まで人事の職人が予想していたのをAIに任せるというだけの話です、個人的には“内定辞退率”という名前がファンキーすぎただけで、“入社確率”とかにしとけば問題視されなかったのでは?と感じています。

まとめると、現状の日本の就活においてはルールによる縛りの多い企業側に内定辞退率への強いニーズが存在し、そしてそれは言うほど悪いものでもないということになります。

むしろ社会としては、

・新卒採用がその後の人生を左右するような重要すぎるイベントになっている
・(学生も企業も)嘘ついてでもその場をしのいじゃったもの勝ち
・“第一志望”以外を口にできない硬直した選考

という構造的な課題に目を向けるべきなんじゃないでしょうか、というのが筆者のスタンスです。

※8月5日付報道でサービス廃止を決定したとのこと

以降、
そもそも受ける会社すべてでなんで第一志望と言わないとダメなのか
「御社は第二志望です」と言えるビジネスパーソンに

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Q:「大変そうですがそれでも管理職になるべきでしょうか?」
→A:「なっておいた方が後で転職するにしても選択肢が増えます」

Q:「大手からベンチャーへの転職で注意すべきことは?」
→A:「情熱をもって働くことです」

Q:「もし山本太郎のブレーンになったら何を提言しますか?」
→A:「ズバリ、金銭解雇の導入です」

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編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2019年8月9日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。