人工知能による病理組織学的診断は実用化レベルに進化

今月号のNature Medicine誌に「Clinical-grade computational pathology using weakly supervised deep learning on whole slide images」という論文が掲載されていた。簡単に言うと「人がわずかに指導するだけで、臨床応用可能な病理診断ができるようになった」である。病理診断のレポート結果と病理画像を人工知能が読み解き、98%の精度で診断ができたという論文である。

(写真AC:編集部)

人工知能の画像解析能力は急速に向上しているが、この結果が事実ならば驚きだ。15,187症例の44,732枚のスライド全体のイメージ像を、すでに診断されていた結果とともに入力して、ディープラーニング(深層学習)させただけで、高精度の診断が可能なシステムが出来上がったというのだ。論文によれば、65-75%の病理画像は人工知能によって100%の精度の診断ができるという。

私が以前、話をした病理医は、スライドグラスを作成して、染色をする(色を付ける)段階でのばらつきが大きいので、それが課題だといっていたが?論文を報告したニューヨークにあるMemorial Sloan Ketteringがんセンターは世界的に高名ながんセンターであるので、検査の標準的な過程・手順がしっかり管理されているのだろう。もちろん、病理診断も均質で行われていなければ、これだけの数字は出ないはずだ。

人工知能の世界では「Gavage In, Gavage Out」(ごみを入れても、ごみしか出てこない)と言われている。人口知能はデータを食べれば食べるほど進化すると言われているが、腐ったものを食べれば、栄養にならず、下痢を起こすだけである。いかに質の高いデータを入力するかがカギを握っているのだが、この点も難なくクリアしたのだろう。

5年ほど前に治療を受けたシカゴの歯科医院では、日本のように歯型を取るのではなく、超音波で歯型を計算して歯を設計し、3Dプリンターで20分ほどで歯を作成していた。特別に高級な歯科医院ではなく、街中にあるありふれた歯科医院でさえこのレベルであったことに驚きを禁じ得なかった。医療のさまざまな領域で、人工知能の応用が想像以上に急速に進みつつある。そして、しかし、人工知能分野は米国と中国が鎬を削って競争している状況だ。ここで埋没すれば、日本の産業・医療は大変な状況になる。気持ちは焦るが、日本ではまるで危機意識がない状況が続いている。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2019年8月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。