日韓、米中…困難な時代の外交官に求めたい交渉術のスキル --- 和田 慎市

相変わらず日韓関係は好転の兆しすら見えてきませんが、戦後これまで続いてきた日本の外交姿勢が韓国を増長させる一因になったともいわれています。

そこで慰安婦、レーダー照射、いわゆる徴用工など個別の問題については専門家にお任せすることとし、外交における交渉術について思うところを述べたいと思います。

外務省庁舎(kawa*******mu/写真AC)

外務省・外交官といえば超エリートであり、極めて優秀な人物が多いはずなのに、国益という観点からすれば、これまで日本の外交が十分機能してきたとは言い難いでしょう。

具体的な個々の交渉条件や締結内容の分析については専門家に譲るとして、人間対人間の交渉場面に焦点を絞れば、日本(人)は最初からハンディを背負っているといえます。

多くの日本人に見られる特徴として、誠実、人の好さ、正直、腰の低さなどがあり、相手を信用しやすく自分の非は素直に謝るという傾向があります。日本社会なら長所とみられることですが、情に流されない実利交渉にたけた国々が多く、中には非を認めず平然と嘘まで吹聴できるような国とも対峙しなければならない外交においては、素のままでは太刀打ちできるはずはありません。

エリート(外交官)はこれまで人生が順風満帆である人が多いと思われますが、敵対する相手との対峙や交渉など、緊迫した場面の実践経験が乏しいため、せめぎあいが当たり前の外交交渉は苦手な方が多いと思われます。

日本人の性格・特質は世界ではかなり少数派(特殊)らしく、相手(国)を日本人と同じと考え、「誠意をもってお願いすればわかってくれるはずだ!」という人情論で交渉しても大半の外国には通じません。結局相手(国)に押し切られて不利な条件を飲まされたり、隣国のように信用しすぎて裏切られたりした事実がそのことを物語っています。

米中貿易戦争、ホルムズ海峡の緊迫など、今後国際情勢は益々混とんとしていきますから、相手の信頼に身をゆだねていては益々国益(国民の安全で豊かな生活)を損ないかねません。

優秀な官僚は交渉のための立案はしっかり行うでしょうが、より重要なのは相手と面と向き合った交渉テーブルで、日本に有利(少なくとも五分五分)な形で条約等を締結できる交渉術です。

実は少し意外に思うでしょうが、私たち教師が実践している生徒指導や保護者対応の経験則が交渉術のスキルを高めるという事実があるのです。

私は過去超教育困難校や定時制高校などで長年生徒指導に関わり、これまで一千件近くの問題解決にあたってきた人間ですが、当初理論・マニュアルはそれほど詳しくありませんでした。それでも多くの生徒・保護者・地域住民と対峙・交渉するような経験を重ねるうちに人を見る目が養われ、知らず知らずのうちに交渉・取引上手になっていったのです。

特に身についたスキルとして、「演技力(パフォーマンス)」「洞察力・読み」「直観力・ひらめき」「適応力・柔軟性」があります。実際対峙する相手によって、声のトーン・大きさ、口調、テンポを柔軟に変え、目力、目つき、目線も意図的に変えることができるようになりました。

モンスターペアレント等のクレーマーと対峙した時には、相手と感情的にやり合おうとはせず、冷静さを保ちながら何を言われても動じない自信満々の雰囲気を醸し出し、それが相手に伝わるようにしました。また窮地に陥った場合、時にはハッタリをかます演技力も欠かせません。

こういった対峙・交渉を重ね精神的に鍛えられたことで危機管理能力が高められましたし、仕事だけでなく日常生活の場面でも、こちらのペースで交渉・取引が進められることも多くなりました。

こういった教師の指導・対応のスキルを身に着けた人間が外交官に増えていけば、もともと豊富な知識を備えている官僚ですから、他国と面と向き合った場面で堂々と渡り合える交渉力を発揮できれば鬼に金棒です。

日本の国益にかなう条約等の締結を達成するためにも、外交官採用基準として、ぜひ交渉術・危機管理能力を一層重視してみてはどうでしょうか。

和田 慎市(わだ しんいち)私立高校講師
静岡県生まれ、東北大学理学部卒。前静岡県公立高校教頭。著書『実録・高校生事件ファイル』『いじめの正体』他。HP:先生が元気になる部屋 ブログ:わだしんの独り言