日韓、米朝…不仲は不利な者を奮い立たせる

覚えている方も多いでしょう。尖閣問題を端に日中関係が悪化した際、中国はレアアースの事実上の輸出規制をしました。その際、自動車業界に多大な影響が出ると大騒ぎしたのが2010年でした。それから2年後の産経新聞の一説にこうあります。

「安価な中国産レアアースに頼り切っていた日本の産業界だったが、2年前のチャイナリスクへの反省から足腰を鍛えた。対中依存度を引き下げようと日本企業は、レアアースを使わない製品やレアアースのリサイクル技術を続々と開発した。この結果、中国の対日レアアース輸出量は11年に前年比34%減となり、今年も大幅な減少傾向にある。日本企業も『やればできる』ことを証明した」。

1970年代、二度の石油ショックで大打撃を受けた日本経済。その時の反省は原油の供給元を複数抱える、ということでした。その石油ショック後中東依存比率を一時は68%程度まで引き下げたこともあります。一方、影響をもろに受けた電力会社はその発電方法を様々な種類にすることで何かあった時にすぐに対応できるようにしました。英語ではfail-safeと言います。適当な日本語が思いつかないのですが、「失敗した時の対応」とでも訳すのでしょうか?

人間、追い込まれたらやり返すという方法もありますが、対策を立てるという賢明な手段を選ぶようになってきました。政府レベルでは対抗措置になる場合も多いのですが、企業ベースになると国際化が進む中で敵を作らないようにしたいというのが本音です。そのためには相手を刺激せず、問題解決をするというのは今ではごく当たり前になってきたと言えるでしょう。

(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)

日本が半導体材料を韓国に対して包括処理から通常手続きに引き戻したことに端を発した韓国側の常軌を逸した行動にはただただびっくりしていますが、それらで本当に影響を受けるであろう韓国企業の声はほとんど聞こえてきていないことにお気づきでしょうか?

つまり、大騒ぎしているのは周りだけで肝心な韓国企業はその解決策を必死に探すという対策に出たわけです。日経が報じたようにサムソンはベルギーの会社から調達手段を見つけたようです。その会社は日本のJSR(旧日本合成ゴム)とベルギーの研究所が設立した合弁会社ではないか、と見られています。なるほど、そういう迂回手段は政府のコントロールから外れます。それ以外にも品質は劣るが中国企業からも調達か、と報じるところもあるし、経産省は「通常手続きを経て輸出承認が出たケースもある」と発表しました。時間と共にいろいろな「対策、対応」が出てきたわけです。

圧倒的シェアを持つ企業の弱みとはそれ以上シェアを増やせないことになります。こう考える人は少ないと思いますが、チャレンジとか成長、目標という点に於いてシェアが100%とかそれに近い企業ほどその分野での伸びしろが少ないともいえるのです。これは逆に言えば今回のような政治的問題が起きると業界地図を書き換えることすら起こりうると考えています。普通は「シェア100%だから」とか「圧倒的な品質だから負けない」という強気姿勢が継続する前提があると考えますが、ビジネスをする者からすればそんなものは長く続かないし、守るのは大変と考えています。

冒頭のレアアースの件は今でも中国に頼っているものの着実にFail Safeの準備は進んでいます。今でももちろん進んでいます。一方の中国は日本が韓国に取ったような「レアアースの輸出管理の厳格化」を再び講じる可能性があるとしてされています。中国は日韓問題の行方を見守っているものと思われますが、日本がそれに成功したと確信を持てた時、中国をはじめ他国は日本のやり方を見習う可能性は大いにあるかもしれません。ただ、その副作用というリスクには気をつけるべきかと思います。

タイトルにある「不仲は不利なものを奮い立たせる」というのは企業だけではありません。北朝鮮を奮い立たせたことも当てはまるでしょう。規制に次ぐ規制をして苦しくてたまらないからロケットを打ち上げ、注目を浴び、トランプ大統領と3度も会うという「功績」を挙げたのはまさに金正恩委員長を奮い立たせたから、ともいえるでしょう。

人間、追い込まれると120%の力を発揮すると言います。我々は今、追い込まれていないのか、もっと力を発揮できないか、自分自身を見直す機会でもありそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年8月19日の記事より転載させていただきました。