韓国政府は22日午後、日本と韓国が締結中の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を更新せず、破棄する方針を明らかにした。2016年11月に発効したGSOMIAは1年ごとに更新する仕組みで、両国どちらかが更新を希望しない場合は、90日前に通告することになっており、今年は8月24日がその期限だった。
聯合ニュース(日本語版)によると、金有根(キム・ユグン)国家安保室第1次長が夕方に記者会見し、破棄する理由について
「日本政府が2日に明確な根拠を示さず、韓日間の信頼喪失で安全保障上の問題が発生したとの理由から『ホワイト国(優遇対象国)』から韓国を除外し、両国間の安全保障協力の環境に重大な変化をもたらした」
などと説明した。午後8時過ぎには大統領府のFacebookに、文在寅大統領らが参加した国家安全保障会議(NSC)の画像をアップ。日本政府にGSOMIA破棄を通告する方針をあらためて投稿した。
GSOMIAを巡っては、日韓関係が貿易戦争に発展したことで破棄の可能性は取りざたされていたが、日本政府内には楽観論もあった。実際、朝鮮日報はこの日朝、「青瓦台きょうGSOMIA延長可否を決定へ」と題した記事で、
韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の延長を決定することが分かった。
と先行報道。「NSCでGSOMIAを自動延長する方向で結論を下す可能性が高い」とする政府関係者のコメントを掲載していた。朝鮮日報が誤報を出したのは、偽情報をリークされたからなのか、それとも政権内部で意見が別れ、ギリギリまで決定を持ち越していたからなのか、現時点では真相が明らかになっていないが、いずれにせよ、日本側が衝撃を受けたことに間違いはない。NHKの取材に対し、防衛省幹部は、
「信じられない。韓国は、いったい、どうしていこうというのか」
と唖然とするコメントをしていた。
政界関係者もツイッターでGSOMIA破棄のニュースにいち早く反応した。よもやの決定に“親韓派”として知られる舛添要一・前東京都知事も「非常識極まりない。金正恩と組んで、日米を攻撃するつもりか」とさじを投げていた。
国会議員では有数の安全保障の論客の一人で、先ごろ自民党入りした長島昭久氏は「日米同盟ではなく、南北統一を優先させるということか。この判断で、半島情勢は新たな次元に突入。」と指摘。さらに「アチソン・ラインの再現なら、我が国の安全保障にとり朝鮮戦争後最大の転機。」とも付け加えた。
長島氏が述べた「アチソン・ライン」とは、冷戦初期にアメリカのトルーマン政権下で国務長官だったディーン・アチソンが朝鮮戦争開戦直前の1950年1月に提唱。米国が西太平洋で責任をもつ防衛ラインとして、アリューシャン諸島〜日本〜沖縄〜フィリピンを挙げた(参照:産経新聞)。
ただ、アチソン・ラインは韓国を除外したことで、のちに北朝鮮が韓国に侵攻する隙を与え、朝鮮戦争の契機の一つになったとされる。トランプ大統領は「アメリカは世界の警察であり続けることはできない」と度々述べており、将来、在韓米軍が撤退となり、文在寅政権が北朝鮮側と歩み寄ってしまえば、北東アジアの軍事バランスが大きく変わり、日本の安全保障環境が重大な岐路を迎えることになる。長島氏が憂慮するのはこうした情勢があるからだ。
NHKが午後8時過ぎに報じた速報によると、日本政府は韓国側にGSOMIA破棄を抗議したが、日韓関係の行方だけでなく、韓国側に協定延長をきつく要請してきたアメリカ、さらには北朝鮮の出方も含め、日本を取り巻く安全保障環境は、予断を許さない状況に突入しつつある。