横浜市がカジノなどを含むIR=統合型リゾートの誘致を正式に表明しました。しかし、「白紙」から一転、誘致表明に転じた市長に、市民が激しく反発しています。
中野サンプラザ解体の件を彷彿とさせる
横浜市は神奈川県東部に位置する神奈川最大の都市です。市区町村では唯一法定人口が300万人を超えています。しかし、財政は切迫し、高齢者の増加にともなう社会保障費の増加が深刻な問題を引き起こしています。
福祉と医療費の増加はとどまるところをしりません。生活保護を求める人が多いことに加えて、医療費が免除されることからさらに増えていきます。皮肉なことに高福祉の実現が福祉医療関連費用の増大を引き起こし、財政をさらに切迫させているのです。
前回の選挙はどうだったのでしょうか?カジノ誘致に関しては各種調査により反対が7割近くになることが明らかになっていました。選挙戦では白紙を明言しています。自公の支持と連合の一部、菅官房長官の後ろ盾によって3選を果たしました。
筆者が今回の件で思い出したのは、昨年6月に実施された中野区長選です。中野区長選は、中野サンプラザの解体問題が争点でした。解体を主張していた田中大輔氏(前区長)が敗れ、計画の全面見直しを訴えた酒井直人氏が当選します。ところが3カ月後、酒井区長はサンプラザの解体を進めると発表したのです。
酒井区長は「サンプラザは『再整備する』という公約で、残すとは公約していない」と主張、その後、メディアにも波及します。1月27日放送のTBS系「噂の!東京マガジン」では、『中野サンプラザ解体騒動めぐり新旧区長を直撃』として、いち早く、解体問題を取り上げました。筆者も専門家として「政治家の言葉」をテーマに解説しました。
産経新聞(2018.6.4)は、「田中元区長がサンプラザと区役所を解体し、1万人規模のアリーナを中心とする集客施設の建設を計画しているプランに対して、他の3候補は反対か見直しの姿勢を伝えた。酒井氏も『計画ありき』ではいけない」と主張したとあります。
毎日新聞(2018.6.15)は、「新区長が初登庁 サンプラザ解体、凍結表明」とし、「酒井氏は就任会見で、区長選で争点となったサンプラザ解体や1万人収容のアリーナ建設などの中野駅北口整備計画について『一度立ち止まる』と述べ、凍結を表明した」とあります。
酒井区長の応援には、蓮舫副代表、枝野代表が駆けつけ「サンプラザを守る」と声を張り上げていたのを覚えています。しかもサンプラザの前で。サンプラザの前で「サンプラザを守る」ですから、どういう意図があったのかお聞きしたいものです。
有権者に伝わりにくい政治家の言葉
「白紙」には新しい状態にすること。「まっさらな状態にしてやり直す」という意味があります。これはビジネスに置き換えるとわかりやすいと思います。
「条件が変わらないのであれば取引を白紙にします」
取引先がこのように言ってきたらどうでしょうか?条件が変更されなければ取引は中止になると考えるのが一般的です。「何もなかった状態に戻る」という意味です。
林市長は「白紙にすること」を明言しています。どのような前提条件が変更され、誘致を正式に表明したのか説明が必要になると思われます。
政治家が言葉を使い分けることは大切なスキルであることは言うまでもありません。しかし、有権者にとって裏切られたような印象を残すことは好ましくありません。
信頼感が揺らいで政治不信につながる危険性があるからです。言葉の解釈で押し切っても有権者は納得しません。政治家の説明は具体的でなければ説得力がありません。
尾藤克之
コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員
※14冊目の著書『3行で人を動かす文章術』(WAVE出版)を出版しました。