金沢の危機感

井上 貴至

地域で活動する人からその思い・経験・知恵を伺い、みんなで交流して、新しいものを生み出す「地域力おっはークラブ」。第85回は、金沢市の山野之義市長に、「金沢の危機感」というテーマでお話しいただきました。

「ビジョンを示し、発信する」ことが政治家の役割というお考えが、見事に体現された講演。一言一言をはっきり話され、腹に響いた。

北陸新幹線が開業し、多くの観光客で賑わうが、敢えて新幹線のための即効的な対策は行わない。あくまで本物を追求する。

文化都市金沢は、歴史の必然であり、歴史の僥倖だという。すなわち、加賀前田藩が、日本最大の百万石の外様大名であったが故、武力ではなく文化力を追求。また、戦災や大きな自然災害に襲われたことがないことから、江戸時代の町並みや文化がそのまま残った。

今の金沢は先人たちの努力の賜物。自分たちが後世に何を残せるかが大事と力を込める。

犀川と浅野川に囲まれた金沢。今も多くの水路が残る。かつては暗渠化されたものもあったが、累次の景観条例に基づき、地権者に対して丁寧にお願い。今では開渠され、用水のせせらぎを愉しむことができる。まちなかの地価も大きく向上した。


日本で数少ない公立の美術工芸大学がある金沢市。多くの工芸家を育み、クラフト(工芸)の分野で、ユネスコ創造都市にも選ばれた。更に、伝統工芸を継承・発展するため、平成元年には、金沢卯辰山工芸工房を開校。世界中から工芸家の卵が集う。授業料をとるだのではなく、逆に、工芸に専念できるよう毎月10万円の報酬を支給。人育てに力を入れる。長年の努力で、2020年には、国立工芸館が東京から金沢に移転される。

また、和食の分野では、全日本高校生WASHOKUグランプリを開催。第1回大会には全国から102チームがエントリーした。決勝に残った8チームは全て石川県外だったが、意に介さない。むしろ、金沢の食の魅力を発信してくれることを期待する。こうした懐の大きさが、都市経営ビジョンに掲げる「世界の交流拠点都市」たる由縁だろう。

文化、芸術、工芸、食、建築。金沢の人たちが誇りを持ちながら継承していく。人口減少の危機感を持った令和のクリエイティブシティが今後、どうなるのかとても楽しみだ。

次回の地域力おっはークラブは、2019年9月25日。
リバネス副社長の井上浄さんにお話しいただきます(詳しくはこちら)。

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<井上貴至 プロフィール>


編集部より:この記事は、井上貴至氏のブログ 2019年8月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は井上氏のブログ『井上貴至の地域づくりは楽しい』をご覧ください。