遅ればせながら、8月21日にFM東京のHPに公表されました第三者委員会調査報告書を読みました。前経営者をはじめ、多くの社員が関与している不正とのこと。業績の悪いグループ会社の連結外し、という古典的な手法であり、委員会も「本件問題行為は会社法違反、会計基準違反」としています。報告書では、前経営者の在任期間が長く、社内の人事権も一手に握っていたことから、「誰も経営者に異論を唱えることができなかった」といったガバナンス上の課題が述べられています。なお、報告書を読み、個人的に印象に残ったのは以下の2点です。
こういった第三者委員会の報告書を読んでいて、いつも思うところですが、日本企業の社外役員(社外取締役、社外監査役)のリーガルリスクへのツッコミは希薄だなぁと感じます(いえ、自分への戒めも込めて、ということです)。ホントに社外役員に対して日本は優しい国です。このような不正が発生しても、「社外取締役は何をしていたのか」「法的責任は問われないのか」と世間から批判されることもないのですね。非上場とはいえ、株主や取引債権者はおられるわけですから、社外役員の役割について、もう少し話題になっても良いのではないかと思いますが。。。
まさに「知らぬが仏」ということですが、100億もの投資事業を担当していたグループ会社について、どうして社外取締役の方々は業績に関する情報収集をしていなかったのでしょうか。5名の社外取締役の方々は株主会社から派遣されていたので、あまり関心がなかったのかもしれませんが(FM東京さんは会社法上の大会社なので)内部統制の基本方針を決議しているはずであり、財務に関する情報収集体制も構築されているはずです。意図的に前経営者が社外役員に情報を遮断していたとしても、なぜ社外役員が重要子会社の情報を収集できなかったのか、とても疑問を感じます。
もう一点が、今回の組織的不正は、会計監査人への内部告発によって発覚した、ということです(正確には社内の内部通報窓口と会計監査人に同時に情報提供があったようです)。会社の規模からみて、内部監査部門が不正を発見することは容易ではなく、また取締役会の監督機能や監査役監査にも期待ができないとなりますと、やはり内部通報や内部告発が唯一の不正早期発見に向けた効果的手法だったと言わざるを得ません。
本件もやはり公益通報者保護法の改正に向けた立法事実を提供する事例だと考えます。近時の田中亘東大教授の論文(旬刊商事法務2195号13頁以下「公益通報者保護制度の意義と課題」)では、画期的な近時の研究発表も紹介されております(内部告発を内部通報と同様に保護したほうが、内部通報制度自体の有効性を高めることになる、とのこと)。近いうちに、公益通報者報奨制度や(告発者への不利益制裁に対する)刑事罰適用といった論点も、改正対象として検討課題に上る日がくるかもしれません。
山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録 42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP
編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年8月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。