去る23日、韓国は日韓軍事情報抱括保護協定(GSOMIA)の破棄を正式通告したが、翌24日には、北朝鮮がミサイル2発を試射。先月25日以来7回目だが、韓米連合訓練の終了(20日)後の発射は協定破棄で揺れる日韓の間隙を突く形となった。
そのような中、文在寅政権は25日、竹島(独島)防衛などを想定した軍事訓練を同日開始したと発表した。6月に実施予定だったが日韓関係への影響を考慮し、見送りされていたものだったが、今回は名称を「東海領土守護訓練」と変えて史上最大規模とする訓練をした。
この一連の出来事を見ると、文政権が自国の安保問題を棚上げにしてまで反日感情の高揚に血眼であることが分かる。
韓国では現在、文大統領の下で民情首席秘書官を務め、法務長官に内定された曺国(チョ・グク)氏の不正蓄財や娘の大学不正入学疑惑が大問題となり、批判世論が沸騰。文政権は不正疑惑を抱える16名を高官に任命してきたが、今回だけは許せないと国民の怒りが拡散している。
韓国の父兄や学生は,他人の不正入学には強い拒絶反応を示す。この疑惑がエスカレートすれば文政権の支持率が急落し、来年4月の総選挙だけでなく政権存続にも赤信号が灯りかねない。
文大統領は2012年の大統領選では「領土紛争を起こしている相手に軍事機密情報を提供するとぼけた国がどこにあるか」とGSOMIA反対を表明していたが、2017年5月の大統領選では「効用性を検討した後に延長するかどうかを決定する」と公約。17年と18年は延長を決定していた。
今回も文大統領は協定延長を示唆したこともあったが、破棄に急旋回した。その背景には、文政権を支える核心スタッフがほとんど“従北主思派”だという事情がある。特に、曺国氏と前秘書室長の任鍾晳氏は北朝鮮主導の南北連邦制統一を狙う主思派の中心人物。文大統領を彼らが操っているという指摘もあるくらいだ。
その最側近と自らの政治生命が脅かされる状況で、生き残りの方策として協定破棄を選択したというのが有力である。つまり、メディアを利用して国民の視線を外に向けさせる世論工作だ。韓国軍の情報源はほとんど米軍情報である。従って、協定破棄が韓国に致命的な打撃を与えることはない。
ただし、中国、北朝鮮、ロシアの3国に対峙する日本、米国、韓国の安保協力体制に障害が生まれるのは事実と言える。ソウル大や高麗大では学生が政府の裏切りに憤っており、国民の反政府デモが拡散する見通しだ。文大統領の政治生命は今後ますます危険に晒されることになるだろう。
(拓殖大学主任研究員・韓国統一振興院専任教授、元国防省専門委員、分析官歴任)
※本稿は『世界日報』(8月27日)に掲載したコラムに筆者が加筆したものです。
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