ヨーロッパのメディアはビアリッツ・サミットの予想外の大成功を讃えているが、NHKは「首脳宣言見送り G7 揺らぐ結束」という見当外れの見出しで朝からフェイクニュースを垂れ流している。朝日新聞もG7「『首脳宣言』見送り」と同じようなもの。どちらも、事態が急変したのに予定原稿をそのまま修正しなかったのだろうがお粗末の極みだ。
ロシアや中国が冷淡なのは参加していないのだから当然だし、アメリカのリベラル系メディアは、トランプ大統領の得点になることは絶対に報道しないから、悪くいわないのだから大成功だということは、安倍政権に対する日本のマスコミと同じだ。
なぜ、こんなことになったかというと、マクロン大統領が、期待値を下げるという高等戦術をとったからで、宣言を採択しないということにしたのもその一環だ。これをドイツのZDFもマクロンとフランス外務省の外交手腕を絶賛している。
結果的には、サミット本体だけでなく、同時に行われた様々な2国間の首脳会談も含めて信じがたいほどの大成功だった。
とくに、イラン問題での進展が大きかった。イランの外相がビアリッツに招待され、各国首脳との会談はなかったが、フランスからサミットの議論の説明を受け、その結果は首脳たちにフィードバックされた。
その結果、会議後のマクロン・トランプ両大統領の記者会見では、イランのロウハニ大統領とトランプ大統領の首脳が数週間以内に会談する話し合いが進展していることが明らかにされた。また、「イラン核合意」を新たに結び直すような方向でアメリカの復帰を図ろうという方向になったようだ。
また、その議論のなかで安倍首相の努力も評価することが忘れられず、ヨーロッパのニュースでもたびたびマクロンのイニシアティブと並んで取り上げられていた。
このところ、隙間風が吹いていると言われていたが、マクロンとトランプの関係はもともと良好だった。トランプが次期サミット議長として出席したサミット終了後の記者会見では、和気あいあいであった。通訳もなしでまったく2人だけでの会談も行われたとのことで、多くの問題が解決された。
とくに、GAFAなどへの課税について、IT企業などだけでなくIKEAなどの多国籍企業への課税をOECDで案をまとめて実施することで一致し、それまでは、フランスが実施する3%の課税をトランプが容認するという信じられない展開となった。
トランプは、報復として予告していたフランスのワインへの課税も見送られ、トランプは「アメリカのファーストレディーはフランスのワインが好きだ」という始末。
サミットの意義についても、「価値観を同じくする国がオープンに議論をするのはいいことだ」といい、マクロンもトランプも「時間を無駄にするのが嫌い」と実質主義を強調した。
また、メルケル首相とトランプの会談も珍しく大成功で、トランプはこのまえドタキャンしたベルリン訪問を約束し、「私はドイツ人の血を引いている」とご機嫌。
さらに、安倍首相とは、貿易協定で大筋合意に成功し、また、トウモロコシの緊急輸入の約束を得て、予定されていなかった共同記者会見を開いたので、日本の記者団は間に合わずアメリカ記者団だけを相手になった。
日本にとって大事なコメの関税は維持して、「中国に売れなくなった米産トウモロコシ輸入」という取引成立。コメはトランプが勝てるはずないカリフォルニア州の問題だからトランプにとってはどうでも言い訳だ。トランプの選挙と日本の利益とで取引成立したということか(日本では生で食べるスイートコーンは国産がほとんどだが、量的にはネグリジブル。飼料・原料用のトウモロコシはもともとほぼ全量輸入なので国産トウモロコシには被害なし。スイートコーンとトウモロコシの区別が付いていない報道が多かったのは困ったものだ)。
サミットではマクロンの周到な作戦で昨年のように深刻なアメリカと他国の対立にならなかったので、そういう意味では安倍首相の出番はなかったが、各国のメディアも常に安倍首相にスポットを当てており、存在感を確保したことが見て取れ、ほとんど外国メディアの画面に日本の首相が映らない時代を知っているだけに感慨深かった。
そして、来年のサミットはマイアミと言うことになった。おそらく、トランプのゴルフ場も使われることになるのではないかといわれている。
八幡 和郎
評論家、歴史作家、徳島文理大学教授