8月20日、立憲民主党と国民民主党は衆参両院で統一会派を組むことで合意した。れいわ新選組の躍進などもあって、野党内での主導権の維持を意図したものであろうが、かつての「民主党の再来」との批判もあり支持を得られるかは微妙なところだ。
参院選では与党の勝利となり、野党第一党である立憲民主党は議席を大きくのばせなかった。野党が勝てない理由については様々な議論があるだろうが、私は「道徳」上の性質の違いが根底に影響していると考えている。
人が持つ6つの道徳基盤
米国の社会心理学者ジョナサン・ハイト(同著・高橋洋訳『社会はなぜ左と右にわかれるのか:対立を超えるための道徳心理学』2014年、紀伊国屋書店)によると、人は理性よりも「直観(や感情)」に左右される生き物であるという。
そして、その「直観」と直接繋がっているのが人々の持つ「道徳心」である。人は一見理性的に見えても、根底にある道徳的な価値観に左右され、それに基づいて直観的に価値判断をおこなっているのである。
それゆえ、政党や政治家がいくら大衆の「理性」に訴えかけても、結局のところ大衆の持つ「直観」、つまり「道徳心」に訴求することができなければ大きな支持を得ることはない。
では、その「道徳心」とはどういったものなのだろうか。以下は、彼の主張する6つの道徳基盤を私なりにまとめたものである。
- ケア(弱者を保護)/ 子どもや高齢者、障害者、低所得者など社会的弱者に対する保護、等
- 自由(自由の拡大)/ 抑圧から弱者の権利を守る、制限や規制を除去する、等
- 公正(公正公平の実現)/ 利益・権利の均等配分か比例配分、税負担など制度の公平さ、等
- 忠誠(内集団への忠誠)/ 家族、地域社会、国家、企業、など所属集団への忠誠、等
- 権威(権威への畏怖)/ 皇室、政府、行政、警察、など権威や階層・秩序の重視、等
- 神聖(純潔清さを尊重)/ 宗教や先祖の尊崇、潔癖、貞操、汚れの忌避、等
個人差はあるにせよ人はこの6つの道徳を直観的に理解できるようになっている。これらの道徳心は、人類が生き残るために必要なものとしてはるか昔から身につけてきたもので、西洋東洋問わず通文化的な性質を持っている。
保守派の方が道徳的に優位である
大衆の支持を得る場合に重要なことは「政党の主義主張が6つの道徳心にそれぞれ訴求しているかどうか」という点にある。米国においては、リベラル派(民主党)よりも、保守派(共和党)の方が道徳的に優位にあるという。なぜなら、共和党の方が「より多くの道徳基盤」に訴えかけているからだ。
上記のように、リベラル派(民主党)は①~③の道徳基盤にしか訴求していない一方で、保守派(共和党)は、①~⑥のすべてに訴求している。
「①ケア」は、社会的弱者への保護などが該当しリベラル派がとりわけ重視する道徳観である。また、保守派においても配慮される道徳基盤である。「②自由」も同じく、リベラル派が重視し、特定の弱者グループの権利に強い関心を抱き、強者による抑圧から弱者を守り権利を求める。他方、保守派においては干渉されない権利として自由をとらえており、経済的自由主義につながる。
「③公正」は、リベラル派においては、富や権利などの均等配分を意味するのに対し、保守派においては「人は自分の努力に見合った利益を獲得すべき」というように富や権利の比例配分を意味する。残りの3つの道徳基盤「④忠誠」「⑤権威」「⑥神聖」について、リベラル派はこれらに対しあいまいな態度をとることがある一方、保守派はこれらを強く擁護する。
ハイトは、上記を踏まえ、民主党が有権者にうまく訴えられていない理由を説明している。近年においても、米国国民の直観や道徳心に訴えかけることに成功したのがトランプ(共和党)であったことにも納得がいく。
日本ではどうか
我が国においては、リベラル派を立憲民主党、保守派を自由民主党として考えてみたい。下記は7月参院選で示された両党の公約をもとに、それが道徳基盤のどこにあたるかを整理したものである。
「①ケア」「②自由」について立憲が重視していることが分かるが、自民においても幼児教育無償化やLGBT対応などの対応を講じていることが分かる。「③公正」については、立憲では消費税凍結とともに累進性の強化を主張しているのに対し、自民では消費増税と経済政策を説く。リベラル派が重視する①~③の道徳基盤は、安倍政権において以前からも連合の主張する賃金の引き上げなどにも対応しており、これらの道徳基盤に訴求してきたと言える。
一方、「④忠誠」「⑤権威」「⑥神聖」など集団特性を持つ道徳基盤においては、両党に違いがみられる。これらに該当しうるのは、国家的一体感や愛国心などと関連する外交防衛分野である。立憲は自民と相対する主張となっており、安全保障や皇室に対する考え方などを踏まえると両党の溝は大きい。公約などを見る限り、立憲はこの3つの道徳基盤へのアプローチが弱いと言える。
韓国対応・トリエンナーレ・参院バリアフリー化
GSOMIA破棄により加熱する日韓関係だが、立憲の枝野代表は、「政調会長名で談話(非難する内容)を出している。あの通りだ」と述べるにとどめたように、韓国に配慮した印象を受けざるを得ない。また、慰安婦とする少女像や昭和天皇の写真を燃やす映像などで批判された「あいちトリエンナーレ」に対しても、立憲は「表現の自由が侵された」とだけの見解を示した。こういった姿勢は、「④忠誠」や「⑤権威」などの道徳基盤には訴求しないであろう。
一方、参院選で当選したれいわ新選組の2名の重度障害を持つ議員に対して、自民党は参院でバリアフリー化や介護費用を補助することを即決した。そこには、党として「①ケア」に配慮する姿勢がうかがえ、そういった意味では、自民党は常に道徳的な国民感情を意識しているとも言える。
さいごに:野党が勝つ方法
自民党が最も恐れるのは、野党が「④忠誠」「⑤権威」「⑥神聖」の道徳基盤にまで主張を広げてきた場合である。
中道を目指した国民の玉木代表も、統一会派を立憲が主導する限り、左に先鋭化し、政権交代するレベルまで大衆の支持を集めることは困難であろう。
では、れいわ新選組はどうか。現状では、れいわ新選組はリベラル色が強く、立憲や共産の票を食う立ち位置であろう。しかし、山本太郎氏のカリスマ性でもって、もしも「④忠誠」「⑤権威」「⑥神聖」の道徳領域まで主義主張を拡大してきたとなれば、確実に自民党の脅威となるであろう。
9月には内閣改造がおこなわれる予定だ。年内解散の可能性もあることからも、各党の動きも活発化してきている。引き続き動向を注視していきたい。
堀江 和博(ほりえかずひろ)
1984年生まれ。滋賀県出身。京都大学大学院公共政策教育部公共政策専攻。民間企業・議員秘書を経て、日野町議会議員(現職)。多くの国政・地方選挙に関わるとともに、政治行政・選挙制度に関する研究を行っている。
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