埼玉知事選はどこで逆転したか?

勝利を確信されておられた方々には驚天動地の事態だろうが、無党派層が圧倒的な割合を占めて浮動票が多い埼玉県では、こういうことがあっても驚くことはない。

埼玉知事選で激突した大野元裕氏(左)と青島健太氏=両氏ツイッターより:編集部

1週間程度の短期決戦であれば、序盤戦で優勢な候補者が逆転されることは殆どない。
選挙の公示前に既に選挙結果が出ているようなものだから、実際に選挙戦が始まった時には選挙は終わっていると言ってもいいくらいである。

そういう意味では、知事選挙は結構長い。
序盤の勢いをどこまで保つことが出来るか、ということが選挙を支える方々の重大な関心事になる。

選挙情勢は、序盤、中盤、終盤の3段階に分けて見ておくと大体は読み取れるようになるのだが、選挙期間が長い知事選挙の場合はもう一つ、最終段階の選挙情勢を新たなカテゴリーとして立てておいた方がよさそうである。

最後の2日間で形勢が逆転してしまった、と自民党の二階幹事長が嘆いておられたようである。
拮抗する両陣営にはそれぞれ有数の選挙のプロが関与されていたようだが、どんな有能な軍師でも最後の2日間の選挙情勢をコントロールすることは出来ない。

接戦を繰り広げているという選挙報道を目にしてそれまで眠っていた人が投票に行けば、それだけで選挙情勢が変わってしまうものである。

何となく親近感を抱いていた候補者が優勢だと報道されれば、それだけで安心して投票所に足を運ばなくなる有権者もそれなりにいるようである。

したがって、大方の陣営はいつも、あと一歩、もう一歩、危ない、危ない、と言うものだが、しかし何度もそういう話を聞かされると、狼少年の話と同様に、何となく馴れっこになって投票所に足を運ぶインセンティブを失ってしまうのかも知れない。

敗れた自民党推薦の候補者の陣営には案外そういう人がいたのかも知れない。

追い上げている候補者の陣営は、日々追い上げているという実感が募ってくるはずだから、途中で手を抜かない限り、通常の場合は追い上げている陣営の方が強い。

最後の2日間で逆転された、というのは、多分正しい。

どこで逆転したのか。
私は、大野候補の陣営がポスターを貼り変えた辺りからではなかったかと見ている。

選挙戦の序盤のポスターは、候補者とアントニオ猪木氏、上田知事の3人の顔が並んでいる普通のポスターだった。
ちょっと目力が落ちている感じのポスターだったので大してインパクトがなかったが、貼り替えた新しいポスターは、文字だけのポスター。

これではそう大した影響はないのじゃないかな、と思っていたが、どうもこれが案外奏功したようである。

候補者の顔写真はないが、メッセージ性はそれなりにある。
何となく印象には残る。

多少自虐的なニュアンスもある。
よく考えてみると、相手候補を盛大にディスっている。

このポスターを見た瞬間は何も印象に残らないだろうが、あれやこれや世間に流布している情報と突き合わせてみると、この度の埼玉県知事選挙の最大の争点が自然に浮かび上がってくる文言がそこに記載されている。

「知事には、知名度よりも政策」

自分たちの候補者は知名度不足だが、しっかりとした政策がある、というアピールである。
逆に言えば、相手候補は知名度はあるが政治の素人だ、というディスリも入っている。

物事を真面目に考える保守層の方々の心に十分突き刺さるメッセージがそこにある。

双方の陣営に日本でも有数の軍師がついていた、ということであるが、最終段階で選挙情勢の逆転を招いたのは、結局はこの一点であろう。

ご参考までに。


編集部より:この記事は、弁護士・元衆議院議員、早川忠孝氏のブログ 2019年8月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は早川氏の公式ブログ「早川忠孝の一念発起・日々新たに」をご覧ください。