極めて危険な日本共産党提唱の「野党連合政権」

加藤 成一

「野党連合政権」は共産党主導の民主連合政府樹立の手段

日本共産党の志位和夫委員長は、8月8日東京都内で開かれた党創立97周年記念講演会で、「参院選を闘った野党と市民が安倍政権に代わる野党の政権構想=野党連合政権に向けた話し合いを開始して、安倍政権を打倒し、自民党政治を終わらせ、野党連合政権をつくろう」と提唱した(しんぶん赤旗日曜版8月25日号)。

野党連合政権構想について記者会見する志位委員長、小池書記局長(共産党HPより)

そして、「野党連合政権」の内容について、26日の記者会見で、志位委員長は、
①連合政権をつくる政治的合意
②一致点を確認した共通政策の策定と不一致点についての対応の政策合意
③衆議院小選挙区での本気の選挙協力

—を挙げ、立憲民主党、国民民主党、れいわ新選組などの野党各党に対し協議の開始を申し入れたことを明らかにした(8月27日付けしんぶん赤旗)。

今回、日本共産党が「野党連合政権」を提唱した最大の目的は、他の野党との選挙共闘や共通政策の実現を通して、可及的速やかに統一戦線の政府である共産党主導の「民主連合政府」を樹立するための戦略戦術であることは明白である。なぜなら、このことは党綱領四=13で明確に述べられているからである。

そこには、「一致点にもとづき統一戦線の条件が生まれる場合もあるから、さしあたって一致できる目標の範囲で統一戦線を形成し、統一戦線の政府をつくるために力をつくす」と書かれており、統一戦線の政府とは、共産党主導の「民主連合政府」に他ならない。したがって、「野党連合政権」は、共産党主導の民主連合政府樹立のための手段であることは上記党綱領上からも明白である。

「野党連合政権」の共通政策

日本共産党提唱の「野党連合政権」の政策の中身は、今後、行われるであろう各野党との政策協議に委ねられようが、共産党の「野党連合政権」における基本的政策は、共産党がかねてより主張している、先の参院選における「野党と市民連合との政策協定」に即したものと考えられる。それによれば、

①安保関連法廃止
②立憲主義回復
③改憲阻止
④辺野古新基地建設反対
⑤消費税増税中止
⑥不公平税制の是正
⑦原発ゼロ
⑧最低賃金引上げ
⑨保育士の大幅待遇改善
⑩公正で持続可能な社会と経済の実現

などとなっている。確かに、これらは今後行われるであろう各野党との政策協議により、上記志位委員長のいう、「一致点を確認した共通政策」となり得るであろう。しかしながら、共産党のいう「不一致点」は下記の通り極めて重大であり、各野党との間で「対応の政策合意」が成立する見込みはない。のみならず、それ以上に、上記志位委員長のいう「連合政権をつくる政治的合意」はあり得ない。

共産党による自衛隊・安保条約の「棚上げ」は著しく危険

まず、上記志位委員長のいう「不一致点」について検討する。「不一致点」とは、まさに自衛隊と日米安保条約への各野党の対応である。日本共産党は、党綱領四=12で、違憲の自衛隊の解消と安保条約の廃棄を宣言している。しかし、立憲民主党や国民民主党などの主要野党は、いずれも、他国の侵略から日本を防衛するための抑止力として、自衛隊の合憲性とその重要性を認め、且つ、安保条約に基づく日米同盟の重要性を認める立場である。

したがって、共産党とは立場が180度異なり、まさに「水と油」と言えよう。そのため、共産党はかねてより「野党連合政権」では、各野党との共通政策のみを実行し、自衛隊、安保条約については共産党独自の主張を封印し「棚上げ」すると言っている。

しかし、自衛隊と安保条約は日本国の存立と平和並びに日本国民の生命と財産を守る安全保障の根幹であるから、共産党が仮に自衛隊や安保条約の問題を「棚上げ」したとしても、日本有事の場合は勿論のこと、平時の場合であっても、共産党を含む「野党連合政権」の対応に対し、日本国民及び共産党を除く与野党の政治家は著しい不安感と危険感を持つであろう。そうだとすれば、上記の「不一致点」について、共産党と他の野党との間で「対応の政策合意」が成立する見込みはない。

市民的自由・人権を抑圧蹂躙する「プロレタリアート独裁」

レーニン(Wikipedia)

次に、上記志位委員長のいう「連合政権をつくる政治的合意」について検討する。日本共産党は、党規約2条で「科学的社会主義」(マルクス・レーニン主義)を理論的な基礎とし、党綱領五=15で「社会主義・共産主義社会の実現」を目指すと規定している。そのうえで、日本共産党は現在でも科学的社会主義(マルクス・レーニン主義)の核心である「プロレタリアート独裁」(党綱領五=16)や、党最高幹部への権力集中と独裁をもたらす「民主集中制」(党規約3条)を放棄せずに温存している。

「プロレタリアート独裁」とは、「資本主義と共産主義の過渡期の国家がプロレタリアート独裁」(マルクス著「ゴーダ綱領批判」渡辺寛訳世界思想教養全集11巻139頁昭和37年河出書房新社刊)であり、「共産主義革命に反対する階級敵や反動勢力による反抗や反革命は法律によって制限されず、暴力に立脚して打倒する労働者階級の権力」(レーニン著「国家と革命」レーニン全集25巻499頁1957年大月書店刊。スターリン著「レーニン主義の基礎」スターリン全集6巻129頁以下1980年大月書店刊)である。

「プロレタリアート独裁」の実態は、まさに「共産党一党独裁」であり、選挙による政権交代を金輪際認めず、議会制民主主義は完全に否定され、集会、結社、言論、出版、表現の自由をはじめとする市民的自由や基本的人権は抑圧蹂躙され、共産党に対する一切の批判は許されないのであり、まさに、現在の中国や北朝鮮、旧ソ連などの共産党独裁政治体制そのものである。共産党以外に日本で「プロレタリアート独裁」を肯定する政党は皆無である。

「プロレタリアート独裁」を放棄しない日本共産党

日本共産党は現在でも「プロレタリアート独裁」を放棄せずに温存している。宮本顕治元日本共産党議長は、「プロレタリア独裁を確立することなしには、社会主義的変革と社会主義建設の任務を全面的に遂行することはできない。」(宮本顕治著「日本革命の展望」218頁以下1966年日本共産党中央委員会出版部刊)と断言し、不破哲三日本共産党常任幹部会委員・付属社会科学研究所所長も、「社会主義日本では、労働者階級の権力、すなわち、プロレタリアート独裁が樹立されなければならない。」(不破哲三著「人民的議会主義」241頁1970年新日本出版社刊)と断言している。

「プロレタリアート独裁」は、党綱領五=16で、「社会主義をめざす権力」と規定され、現在でも放棄せずに温存している。さらに、日本共産党が現在でも採用している「民主集中制」は、科学的社会主義(マルクス・レーニン主義)の核心である少数の職業革命家による暴力革命論に基き、党は秘密結社であるため党内民主主義を認めず、党最高幹部への権力集中と独裁をもたらす制度である。「民主集中制」は、旧ソ連のスターリン個人崇拝による大粛清、銃殺、強制収容所や、毛沢東個人崇拝による文化大革命の多大な犠牲をもたらした。共産党以外に日本で「民主集中制」を採用する政党は皆無である。

「敵の出方論」を放棄しない日本共産党

日本共産党は現在でも、いわゆる「敵の出方論」を放棄せずに温存している。「敵の出方論」とは、社会主義・共産主義革命のためには、敵である反革命勢力や反革命分子の出方に応じて、非平和的手段である暴力の使用を排除しないということである。宮本氏も前掲書で、「革命への移行が平和的となるか非平和的となるかは、結局敵の出方による」と述べ、不破氏も前掲書で「わが党は革命への移行が最終的には敵の出方に係るという立場をとっている」と述べている。

日本共産党は「敵の出方論」を放棄せずに、科学的社会主義(マルクス・レーニン主義)の核心である「暴力革命」(マルクス著「資本論」第1巻「暴力は新しい社会を孕むすべての古い社会の助産婦である」向坂逸郎訳938頁昭和46年岩波書店刊)を革命の手段として温存しているのである。共産党以外に日本で「敵の出方論」を肯定する政党は皆無である。

野党連合政権について立民・福山氏に申し入れる小池氏(共産党HPより)

極めて危険な日本共産党提唱の「野党連合政権」

以上に述べた通り、日本共産党は、「科学的社会主義」(マルクス・レーニン主義)を理論的基礎とし、「社会主義・共産主義社会の実現」を目指し、「プロレタリアート独裁」も「民主集中制」も「敵の出方論」も、一切放棄せずに温存している。このような「革命政党」である日本共産党と、立憲民主党、国民民主党などの他の野党との間には、イデオロギーにおいて絶対的な矛盾対立が存在するのみならず、自衛隊、安保条約など外交安全保障の根幹においても、絶対的な矛盾対立が存在することは明白である。

よって、他の野党が、このような日本共産党と「野党連合政権」を共にすることは日本の国益に著しく反し、且つ、日本国民を「社会主義・共産主義社会」へと誘導することになりかねず、極めて危険であるから、他の野党は決して共産党の「野党連合政権」の誘いに応じてはならない。

のみならず、今回、日本共産党が提唱した「野党連合政権」は、統一戦線の政府である共産党主導の「民主連合政府」(党綱領四=13)の樹立を目指すための戦略戦術であることは党綱領上からも明白であるから、他の野党は共産党の真の狙いを絶対に忘れてはならないのである。

加藤 成一(かとう  せいいち)元弁護士(弁護士資格保有者)
神戸大学法学部卒業。司法試験及び国家公務員採用上級甲種法律職試験合格。最高裁判所司法研修所司法修習生修了。元日本弁護士連合会代議員。弁護士実務経験30年。ライフワークは外交安全保障研究。