来年の都知事選日程とオリンピック日程との干渉・衝突の問題が指摘され久しいが、未だ何の対応も見られないことが気になる。知事が早めに辞職し選挙を前倒しても解決しないのは、多くの方が指摘するように、任期途中で辞職、再選した知事や市長の任期を制限する公職選挙法の第259条の2による。
この規定は、対立候補の準備不足を狙い、不意打ちで辞任し、自らに有利な選挙を行うことを防ぐ趣旨によるが、そのルーツは、昭和29年(1954年)頃の社会状況を前提としていることから、今の時代なら法改正可能なことを誰も指摘しないことが私の不満である。
当時は、食料や物資、電力なども不足ぎみ、電話機は普及途上、街頭テレビの時代で、特に地方都市で、知事や市長に不意打ちで辞職され選挙になると、対立候補は準備不足のままの選挙戦を余儀なくされたと容易に想像できる。
昭和29年10月の国会審議を見ると、自己の選挙のため、都合のよいタイミングで辞職することが問題として指摘されている。
<衆議院・委員会審議録(昭和29年10月21日)>
中井一夫議員「最近知事がいまだ任期終らざるに、数箇月を残して進んで辞職をして、ただちに選挙態勢に入らんとする、これまた一箇所のみならず、数箇所において行われつつあります。」「知事が半年余もの任期を残して、自己の選挙のために都合のいいように辞職をして、立候補の好機会を得ようとするようなやり方が行われようとしております」
昭和30年7月の国会審議で、「いわゆるお手盛り選挙」が「厳しい世論の批判を受けている事実」から、議員立法として改正案が提出された。内容は、任期途中で辞職すると、立候補できないという今より厳しいものであった。その後、昭和31年3月に成案となった。
<参議院・委員会審議録(昭和30年07月21日)>
石村幸作議員「改正の第一は、都道府県知事または市長の職の自発的退職を申し出た者は、当該退職の申し立てがあったことにより告示された選挙に立候補することができないものといたしたのであります。これは、いわゆるお手盛り選挙が選挙の公正を害するものとして厳しい世論の批判を受けている事実にもかんがみ、あえてこの際取り上げた次第であります。」
はるか70年近く前と今の違いも考えつつ、この規定の趣旨を損ねない法改正をすれば、都知事選を5月に実施することができるはずである。
例えば、知事や市長が2か月先に辞職すると宣言して辞職した場合などは、今の時代なら、他の候補者も十分な準備期間を確保できるので、再選後の任期を制限する規定を適用しないとすることは、何の問題もない。
ただ、昨今の知事や市長の任期途中の辞職では、選挙費用が大きな批判となることなどから、一定の歯止めを設けた方がよい。地方議会には、特別多数議決という制度があるので、これを活用できる。例えば、知事や市長の不信任は、4分の3以上の同意が必要、他にも5分の4や、3分の2の議決を必要とする手続きがあり、これが特別多数議決である。
すなわち、2か月以上先の辞職で、かつ、議会の3分の2以上の同意がある場合に限って再選後の任期を制限しなければよいだけのことである。与党、野党を問わず、議員の多くも、選挙を前倒しすることが必要と判断したケースに限定すれば、あちらこちらで辞職、選挙が実施される心配はなくなる。そして、この法改正で、小池都知事の前倒しの辞職が、都知事選の5月実施の解決策となる。
令和の時代の国会議員の方々が、秋の国会で、議員立法として、こうした改正を提案されることを期待する。また、法改正後は、小池都知事が4月の辞職を宣言し、都議会が特別多数決議で同意することを期待する。
補足
昭和37年(1962年)4月の国会審議で、立候補できるが当選後の任期を制限する現在の形となった。知事や市長と議会が厳しく対立し、県政、市政が停滞したような場合など、自らが辞職して有権者の信を問う道筋を開くための改正であった。近年の大田正知事時代の徳島県や、田中康夫知事時代の長野県と同じような出来事がこの頃もあったのであろう。
<参議院・委員会審議録(昭和37年04月24日)>
岸昌説明員「その後の運営の実際にかんがみますと、議会が不信任議決をいたしますと解散をされる。その解散をおそれまして不信任議決はいたしませんが、いろいろ事あるごとに知事なり市長の要請を妨害する、こういうような事例がございます。こういう場合に、解散はできませんので、長のほうで退職をいたしまして住民の信を問うことによって県政なり市政を明朗化していく、こういう必要が認められる場合もございます。」
この規定のルーツは、昭和30年(1955年)7月、参議院で議員提案された法案、いわゆる議員立法が成案を得たものである。
中村 哲也 団体職員(建設分野)