企業年金に関する日本法の欠陥を補うもの

フィデューシャリーというのは英米法の用語で、他人から信じられて何かを託された人のことである。信じて託した人と信じられて託された人とは、特別な信頼関係にあるわけだが、このフィデューシャリー関係は、敢えて日本語を当てるときは、信認関係と呼ばれる。

画像:123RF

今では、日本の企業年金の資産運用についても、フィデューシャリーの責任が論じられるが、これまでは、このフィデューシャリーの責任に受託者責任という用語があてられてきた。

受託者というのは、法律用語としては、信託の受託者のことである。企業年金の資産運用では、信託銀行との間の信託契約が大きな役割を演じているが、受託者責任というと、狭い意味で、信託銀行の受託者としての責任なのか、広い意味で、制度の運営を託された企業年金関係者のフィデューシャリーとしての責任なのか、わからなくなってしまう。同様に、受益者についても、信託銀行に対する関係で受益者となる企業年金を意味するのか、企業年金の受益者としての加入員と受給者をいうのか、わからなくなってしまう。

そこで、受託者責任を信託契約に関する責任に限定し、企業年金の責任については、敢えてフィデューシャリーの責任、即ちフィデューシャリー・デューティーという英米法の用語を援用したほうが混乱を避ける意味で便利である。

企業年金の資産運用にかかわるフィデューシャリーの責任が日本で論じられる背景には、米国の企業年金制度におけるフィデューシャリーの責任の構造を、比喩的に、もしくは立法論的に、参照する論者が多いからである。

当然のことながら、日本と米国では、法律の構造が大きく異なる。企業年金制度における資産運用を律する法律の構造も全く違う。全く違うにもかかわらず、米国法が参照されるのは、米国型の規制と日本型の規制を比較したとき、立法論的に、日本法の一つの改善の指針として、米国法が援用されているのである。

要は、米国の企業年金の資産運用の責任者に課せられる責任に比して、日本の企業年金の資産運用の責任者に課せられる責任が曖昧にすぎて、実効性に乏しいということなのである。

 

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
HC公式ウェブサイト:fromHC
twitter:nmorimoto_HC
facebook:森本紀行