民放連ネットデジタル戦略2019

民放連ネットデジタル研究会。座長を務めます。
本年度も報告がまとまり、巻頭言をしたためました。

写真AC:編集部

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昨年の巻頭言は、「生臭い政治の風が吹いている」と書き出した。放送の規制や電波制度を見直す政権の方針に疑問を呈するものだった。議論はその後正常化し、落ち着いたところで、NHKの常時同時ネット配信に道を開く放送法改正が成立した。新しい幕が開く。

NHKに対する懸念の声も聞く一方、BBCの同時配信は2008年開始という点からみれば、海外のデジタル・ネット対応は12年ほど厚い経験を持つ。その間、国内では通信・放送融合の法体系が用意され、地デジの整備も完成したが、デジタル・ネットは通信が主導してきた。

スマホファーストが如実となる一方、GoogleやAppleのスマートテレビに次いで、NetflixやAmazonが映像配信を本格化している。幕が開いたとたん、次の風が吹き込む。内山隆委員のレポートがそのあたりの状況と、広告・VoDビジネスについて掘り下げている。

どうする。そこで本プロジェクトのメンバーでイギリスを調査してきた。われわれが見たものは、BBCと民放が協働して、アメリカに対抗する姿だった。共通プラットフォームBritBoxを作るとともに、視聴者のデータを放送局が使えるようコミュニティを形成する。

さらに、BBC・民放ともに電波やケーブルの配信=ハードを外部委託しており、受託するRed Bee Mediaが全ての放送局のコンテンツをIPベース、つまり通信のクラウド環境でソフトウェア管理するシステムを実装しているのには驚いた。

クラウドにコンテンツを乗せ、電波、ケーブル、あらゆるネットワークで、テレビ、スマホ、PC、あらゆるデバイスに送る。これが通信・放送融合の未来像だろう。BBCがあと17年で地上波を返上するという噂も流れていた。

菊池尚人座長代理が書くように、放送局が免許を持ちながらハードを(しかも外資に)委託するという「イギリス的な法の運用」は、次に民間が政府に投げ込むインハイの球ではなかろうか。これも菊池さんが書くように、イギリスの放送関係者がみな楽観的で自信に満ちていたのは、こうした対応の裏付けがあるからであろう。

放送法改正に関し国会に参考人として呼ばれた私は、これらを踏まえ問題提起を試みた。
日本もイギリスのようにNHKと民放が連携した基盤整備の戦略を持てないか。テレビ版radikoのような同時配信プラットフォームを作る。IP クラウド対応やデータ利用促進を進めるための連携基盤を構築する。

放送局の共同プラットフォームを形成して、プロモーションを高める。IPのクラウドベースを用意して、多様な伝送路で多様なデバイスに展開するとともに、コストを格段に下げる。視聴履歴のビッグデータをAIも回して視聴行動を導く。この基盤を作れないものか。

さらに、ネット配信を促進するための課題として、著作権処理の円滑化が挙げられる。放送と通信では著作権の位置づけが異なるため権利処理が複雑となる。これを改善するには制度改正も必要になる可能性もあるが、まずは民間の努力が重要。これも前進できないか。

その答えをこのレポートに描いたわけではない。が、各局の対応はみな未来志向である。
ネット同時配信(フジテレビジョン、日本テレビ放送網、テレビ東京)、スマホファースト(TBSラジオ、エフエム東京、東京メトロポリタンテレビジョン、毎日放送)、VR配信(北海道テレビ放送、テレビ朝日、RKB毎日放送)。現場は挑戦を続けている。

先ごろ幕張で開催された展示会Connected Media Tokyo 2019でも、スマホからテレビに視聴を誘導するスマホファーストの仕組み、個人の視聴データをコントロールするシステムなどが展示されていた。私が国会で問題提起などしなくても、現場は動いている、と恥じ入った次第だ。

昨年の巻頭言は、融合2.0へ突入するいま必要なのは「その先を描くビジョンを自ら示すこと」と閉めた。だが、既に新しい幕が開いたいま、もはや必要なのはビジョンではなく、改めてこれら現場による一つ一つのアクションかもしれない、と思い直している。
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参考:直近3年の巻頭言。

2018「民放ネットデジタル会議 2017
2017「2020Tokyoに向け民放は
2016「スマートテレビから5年、民放はいま


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2019年9月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。