三木谷氏が楽天的でいられなくなった!

8月31日の「今週のつぶやき」で「楽天のお仕事は間に合わないのか?」と題して10月サービス開始予定の楽天の携帯サービスが工事遅延等でその危機にあると書かせていただきました。

(編集部撮影)

(編集部撮影)

それから1週間もたたない間に記載したとおりになってしまいました。日経に「楽天、携帯本格参入を半年延期 来春に」とあり、記事内容を見ると10月からのサービスでは5000人に限定し無料とするとあります。そして本格サービス開始は来春としていますが、具体的な日は明示していません。

この記事が意味することは通信の基地局の整備がほとんど追い付かず、十分な通信機能を果たさない公算があり、有償ではとてもサービスするに堪えがたいものになると読み取れます。

楽天はネットやITを駆使した会社として快走しているのですが、携帯の参入には様々な意見がありました。それはそれまでのインフラを使っていた会社がインフラになろうという変革であるからです。これは三木谷社長の野望としては評価します。ただ、現在の3社体制のインフラを4社にする価値がどれだけあるのか、といえば個人的には疑問視していました。

確かにこのビジネスは総務省から許可を貰うことが既得権になること、一旦インフラを整備すると「キャッシュ カウ」(金のなる木=キャッシュフローが極めて良化する)になるという二つのメリットを享受したうえで楽天の様々なビジネスと携帯を組み合わせる飛躍が可能になります。

ただ、私には三木谷社長ほどの人が成熟し競合しあう市場にわざわざ飛び込んでいくそこまでの積極的理由は見出せません。よほどの価値を見出したということなのでしょう。

さて、遅れている基地局の工事。日経によると2020年3月までに3432か所の基地設置計画に対して9月5日時点で532か所にとどまります。7月30日時点でで118か所でしたのでここにきて確かにやや加速度はついてきていますが、到底標準的なサービスを施すレベルには程遠い状況です。もともとは9月末までに基地局設置数は5-6000か所の設置予定を下方修正したのが3432か所という数字と理解しています。

ではなぜ、工事が遅れているかといえば先週お伝えしたように工事業者が台湾系サーバーとアメリカ新興企業のソフトウェアを組み合わせた斬新さの上に楽天自身も工事に慣れた人材が十分にいなかったことがその遅延の背景となっています。

ところで今、楽天が目指すのは4Gの整備ですが、ほかの3社は当然5Gの準備を進めています。4Gと5Gで何が違うかといえば基地局の数が圧倒的に相違します。4Gならば半径数キロをカバーできますが、5Gは1キロもカバーできません。となると今までよりも数倍の基地局が必要になります。そしてその基地局には光ファイバーをつなぎこまねばなりません。

さて、問題はここからです。KDDI、ソフトバンク、楽天は5Gに対応する基地局を電柱の上に作る実験をしてきました。ですが、東京都は電柱を地中埋設に切り替えつつあります。つまり、電線が少なくなってきてます。特に幹線道路は極端に減ってきています。ではどこに基地局を作るのか、これが大変なのだろうと思います。

電線のない欧米はどうしているのか、といえば基地局は建物の屋上を借りるケースが主体です。何気なく建物の上を見ると道路に向かってアンテナがあちらこちらにあります。それが基地局なのですが、一口に建物の上に基地局と言っても膨大な手間とコストがかかります。建物の屋上にどうやって光ファイバーを持っていくのでしょうか?

建物最上階までは建物内の電線インフラがありそこを這わせることは可能ですが、そこから先は建物に穴をあけ本格工事を要します。それ以上に建物の持ち主に許可を貰う作業、特にそれが分譲マンションの場合、管理組合の承諾が必要でその時間は極めて遅く一般企業が考えられるようなスピード感はないでしょう。

世の中がより複雑になり、技術の革新はより高度で積み上げが必要になる点において既存3社は黎明期に投資をして現在までたどり着いています。それに対して楽天の場合、一気に高みに上ろうというのですから気合だけでできるものでもなく、事務所で徹夜してできるものでもありません。

工事という作業員と機器の設置を所有者の了解を得て敷設するという気の遠くなる作業を続けるわけで三木谷社長の当初の自信満々の姿勢に対して周りは戦々恐々だったというのが実情ではなかったかと察しています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年9月6日の記事より転載させていただきました。