NHKは放送法や受信規約、免除基準を守っているか?

長坂 尚登

愛知県・豊橋市議の長坂です。

先日、NHKの放送受信契約や受信料に関して豊橋市議会でも取り上げ、昨日のブログでもやりとりを書かせてもらいました。


このブログについて「わかりにくい!背景からもっとわかりやすく書いてほしい!」というご指摘をいただいたこともあるのと、全国的にも共通する問題だと思いますので、アゴラの読者の皆さんに向けて、あらためて制度的な背景の説明も含めて書いていきたいと思います。

編集部撮影

前提1.契約の義務

多くの方がご存知のように、この国では、家にテレビがあったら、NHKと契約をしないといけません。この契約に基づいて、受信料がNHKから契約者に請求されます。

受信契約の義務」とNHKも、放送法をサイトに記載しています

【放送法第64条(受信契約及び受信料) 】
第1項  協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。ただし(以下略)

前提2.部屋ごとの契約

NHKは、日本放送協会放送受信規約(総務省認可。以下、受信規約)で、放送受信契約を「住居」と「事業所等」に分けています。

「住居(世帯ごと)」の契約では、1世帯で受信機(テレビ)がいくつあっても、契約は1つ、つまり受信料は変わりません。自家用車のカーナビや、ワンセグ携帯も含まれます。

ところが受信規約では「事業所等」の場合、「受信機の設置場所ごと」つまり部屋ごとに契約が必要としています。社用車のカーナビや、社用携帯もワンセグ機能付であれば、それぞれ1つの契約です。そして、契約の数に合わせて、受信料も増えます。

(放送受信契約の単位)
第2条 放送受信契約は、世帯ごとに行なうものとする。ただし、同一の世帯に属する2以上の住居に設置する受信機については、その受信機を設置する住居ごととする。

2 事業所等住居以外の場所に設置する受信機についての放送受信契約は、前項本文の規定にかかわらず、受信機の設置場所ごとに行なうものとする。

3 第1項に規定する世帯とは、住居および生計をともにする者の集まりまたは独立して住居もしくは生計を維持する単身者をいい、世帯構成員の自家用自動車等営業用以外の移動体については住居の一部とみなす

4 第2項に規定する受信機の設置場所の単位は、部屋、自動車またはこれらに準ずるものの単位による。
https://pid.nhk.or.jp/jushinryo/compliant_1.html

前提3.ゼロ円契約と調査

また、NHKは学校などに対して、受信料を免除しています。

しかし、免除されるのは「受信料」であり、契約が免除されるわけではありません
先ほどの放送法に「受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」と書いてありますから。

わかりやすく言えば受信料免除でも「ゼロ円契約」が必要です。
これは、日本放送協会放送受信料免除基準(総務省認可。以下、免除基準)で定めています。

また、この免除基準の中で、社会福祉施設等や学校についての「免除事由の調査(以下、免除調査)」を「2年ごとに行う」としています。この「免除事由の調査」の項目は、2011(平成23)年に総務省から認可され、追加されたものと思われます。

1 全額免除
(社会福祉施設等)
(1) 別表1に掲げる社会福祉施設等において、入所者または利用者の専用に供するため、その管理者が受信機を設置して締結する放送受信契約

(学  校)
(2) 別表2に掲げる学校において、児童、生徒または幼児の専用に供するため、その管理者が受信機を設置して締結する放送受信契約

(中略)

3 免除事由の調査
日本放送協会放送受信規約第10条第4項の調査は(略)基準第1項(1)、(2)および(5)ならびに基準第2項による免除については2年ごとに行なうものとする。(以下略)
https://pid.nhk.or.jp/jushinryo/exemption_1.html

総務省 報道資料(平成23年6月14日)
日本放送協会放送受信料免除基準及び日本放送協会放送受信規約の変更の認可
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu07_01000019.html

先日の市議会で、豊橋市の施設にある「受信設備」の数と、契約状況について聞きました。

受信設備の数は1801台
うち、有償契約をし、受信料を支払っているのが378件(年:4,384,176円)ということでした。
(上記の378件には、学校の職員室などにある受信設備も含まれています)

そして、残りの1423台については、社会福祉施設等や学校などで、全額免除の対象となる形で設置、という豊橋市の認識でした。
(前提3)のように、このような場合でも「ゼロ円契約」が必要です。

しかし「ゼロ円契約」が結ばれているかわからずNHKに確認してもすぐにはわからない、という状態でした。

(前提3)のように、免除基準では、NHKが2年ごとに免除調査をすることになっています。
NHKがちゃんと調査をしていれば、少なくとも最新の調査結果における「ゼロ円契約」の状態はわかるはずです。

この免除調査を受けているかどうかの認識も、豊橋市に聞きました。
豊橋市の答弁では、調査があった認識はなし

豊橋市からNHKに確認したところ、
「毎年行っている『テレビ等受信機設置状況調査(以下、毎年調査)』が、免除調査に当たる」との回答だったようです。しかし免除調査は「2年ごと」と定められているため、豊橋市にその認識はなかったようです。

そのため豊橋市は、毎年調査に学校教室などのテレビの設置状況については、記入していなかったと思われます。しかしNHKだって、豊橋市の小中学校にテレビ(受信機)があることは容易に予想できます。

毎年調査に、学校教室などのテレビの設置状況について記載していなかったことについて、NHKから指摘がなかったのか、を豊橋市に議会質問したところ、これも「指摘はありませんでした」。

この時点で、免除調査の杜撰さが見られます。

僕は、毎年調査が免除調査に当たる、というNHKの回答に大きな疑問を感じました。

そこで、免除調査が免除基準の項目に加わった2011(平成23)年前後で、毎年調査の調査票や方法の、変更や追加の説明が、NHKからあったのかを、豊橋市に聞きました。

豊橋市からは、調査票は市が定める文書の保存期間を過ぎてしまっているので、確認できない。
そのため(説明などがあったかについて)NHKに確認中(まだ回答はない)、旨の答弁でした。

完全な民間同士の話であれば、双方の合意で「ゼロ円契約」や調査を省略することはあり得るでしょう。

しかし、NHKの放送受信契約は、そうではありません。
放送法や国(総務省)認可の規約や基準で、定められており、市民(受信設備の設置者)に対して義務的あるいは、強制力がとても強いものです。

そのため契約に相対するNHKにも、法律はもちろん、規約や基準についても、損得計算とは関係なく遵守が必要と思われます。ましてや、規約や基準は(少なくともその変更は)総務省の認可が必要なものの、NHKから総務省に申請しているものです。

有償の放送受信契約を迫ったり、受信料を請求するときだけ、放送法や規約・基準を主張する一方、今回の市議会での質問で見え隠れするように、免除の契約や免除調査については、放送法や規約・基準を守っているのかとても怪しい。

こんな状態で、NHKはこれからも放送法や規約・基準を元に、受信契約や受信料を市民に迫れるのでしょうか。

地方議員には自らの自治体のゼロ円契約や免除調査の状況を、国会議員にはNHKがゼロ円契約をちゃんと把握しているか、ぜひ聞いてみていただきたいです。

では!

長坂 尚登    愛知県豊橋市議会議員(無所属)
1983年豊橋市生まれ。地元の時習館高校卒業後、東京大進学、コンサルティング会社で働き、10年間東京で過ごす。2012年Uターン、商店街マネージャーとして、豊橋の街づくりに奔走。2013年から内閣官房より地域活性化伝道師を拝命。 2015年商店街マネージャーを退職し、豊橋市議に最年少・無所属で立候補、新人トップ当選(全体8位)。