メルケル首相の12回目の訪中は?

メルケル独首相ほど中国を頻繁に訪問する西側首脳はいない。同首相は昨年5月に訪中したばかりだが、今回は5日から3日間の日程で訪中した。今回で12回目だ。今回の訪中にはいつものようにドイツ産業界からVWやBMWなど同国経済を代表する企業代表が随伴した。

12回目の訪中入りしたメルケル独首相(独連邦首相府公式サイトから)

訪中の目的は中国との経済関係の強化だが、今回の訪中は別の意味で注目された。米中貿易戦争の真っ最中であること、それ以上に、6月初め以来、香港で連日民主化デモが行われている時、西側首脳として初めて中国入りするからだ。メルケル首相が北京の共産党政権に香港の民主化デモへの平和的対応を強く要求するかどうかにメディアの関心が注がれた。

メルケル首相は6日、李克強首相との首脳会談で香港のデモ問題に言及し、「武力衝突が生じないように、平和的な解決を期待する」と要請し、英国と北京政府間で合意した基本条約(1984年)に言及し、「中国に完全統合されるまで、香港国民の権利と自由は保障されなければならない」と強調、香港政府とデモ参加者の対話推進を求めた。

それに対し、李克強首相は、「北京政府は香港政府が法に基づいてカオス状況を終わらせ、秩序を回復できるよう支援する。世界は中国を信頼すべきだ。われわれはそのための知恵を有している」と述べている。同首相の発言について、香港の反体制派は、「中国は香港に軍を派遣する代わりに、緊急条例を発動させるのではないか」と懸念している。

林鄭月娥行政長官は4日、逃亡犯条例改正案の撤回を発表し、デモ側の要求に応じたが、雨傘運動の元リーダー、香港政党「香港衆志(デモシスト)」の黄之鋒氏は5日、訪問先の台湾で、香港政府に対して市民の「5大要求」に全て応じるようにと呼び掛けた。具体的には、独立調査委員会の設置、高度の自治、行政長官を選ぶ「真の普通選挙」などの実行だ。黄氏は「全ての要求が受け入れられるまで抗議活動を続けていく」という。

デモ側が恐れていることは、改正案が撤回された今、市民が抗議デモを行えば、香港当局に緊急条例を発動する口実を与え、政府がさらなる強硬な手段で市民を抑えつけていく可能性が高いことだ。

海外中国メディア「大紀元」によると、「6月から始まった抗議活動において、すでに1200人の香港市民が警察に拘束された。最年少者は12歳。黄之鋒氏を含む100人以上の市民が不法集会などの疑いで起訴された」という。CNNなどの報道によれば、中国政府は既に軍隊を香港境界線に待機させ、いつでも出動できる態勢を敷いているという。人民軍が香港のデモ鎮圧に乗り出せば多くの犠牲者が出ることは避けられなくなる。

独週刊誌シュピーゲルによると、メルケル首相の訪中入り前に、黄之鋒氏は、メルケル首相宛てに公開書簡を送り、香港のデモ参加者のために力を尽くしてほしいとアピールし、「中国とのビジネスを止めるべきだ、中国は国際法を遵守していない国だ。あなたは旧東独で成長した政治家だから、共産党独裁政治がどのようなものか誰よりも知っているはずだ」と指摘している。

ドイツ国内では、メルケル首相の訪中に対し、様々な注文が飛び出していた。例えば、野党自由民主党(FDP)は「一国二体制を明記した1984年の英中声明を遵守するように訴えるべきだ。中国が1989年の天安門事件のように、武力で香港市民の平和的デモを鎮圧するようなことがあれば、ドイツを含む欧州は黙っておれなくなる」と強調している。

国際人権活動家は、「香港だけではない。新疆ウイグル自治区問題についても、メルケル首相は中国側に質すべきだ。同自治州では数十万人のウイグル人が強制収容所に送られ、弾圧されている」という。

メルケル首相は6日、習近平国家主席、そして李克強首相と会談し、7日は武漢市を訪れ、華中科技大学の学生たちの前で演説し、「中国の国民経済は成長し、貧困問題も克服できた。それに呼応して、中国の世界に対する責任は高まってきた。相互協力して開かれた世界を築くために努力してほしい」と呼び掛けている。

中国武漢市を視察中のメルケル独首相(独連邦首相府公式サイトから)

ドイツの対中外交は過去、それなりの成果を挙げている。例えば、中国の著名な現代美術家の艾未未氏の釈放にドイツ政府は努力し、ノーベル平和賞を受賞した民主活動家、劉暁波の妻で詩人の劉霞さんは8年間の軟禁から解放された後、昨年7月10日にドイツに無事出国できた。メルケル首相の12回目の訪中の成果はどうだろうか。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年9月8日の記事に一部加筆。