韓国は質より量か!「WTO裁定で大部分に勝訴」の呆れた根拠

高橋 克己

「何より面子」の如何にも韓国らしい報道と呆れるほかない。「WTOの上級委員会が10日、韓国が日本製の産業用空気圧バルブに課した反ダンピング(不当廉売)関税がWTO協定に違反していると認定し、是正を勧告した」(Bloomberg)ことに対して、韓国各紙が挙って「韓国、大部分に勝訴」と報じているのだ。

WTOで韓国と係争した空気圧バルブ(画像はWikipedia、WTOサイトより)

産経新聞は、世耕弘成経済産業相が「韓国にWTO協定に整合しない措置の誠実かつ速やかな是正を求めていく」とのコメントを発表したとし、韓国側が勧告を履行しない場合、日本はWTO協定に従って対抗措置を発動することができると報じた。

念のためにWTOのサイトに当たったところ「Recommendation(勧告)」にはこう書いてある。(拙訳。念のため原文を併記)

6.6   Recommendation 勧告

6.34. The Appellate Body recommends that the DSB request Korea to bring its measures found in this Report, and in the Panel Report as modified by this Report, to be inconsistent with the Anti-Dumping Agreement, into conformity with its obligations under that Agreement.

(上訴審は、紛争解決機関(DSB)が韓国に対し、本報告書および本報告書によって修正された小委員会(パネル)報告書にある反ダンピング協定と矛盾する措置を、その協定に基づく義務に適合させる(是正する)よう要請することを勧告する。)

これを見る限り「反ダンピング協定に違反した韓国がその是正を求められた」のだから「韓国敗訴」としか読めない。なぜなら、「是正」とは、韓国が2015年から日本企業の製品に課している11.6-22.7%の反ダンピング関税の見直しを意味するからだ。

ところが韓国聯合ニュースの報道はこうだ。(太字は筆者)

パネルは2018年4月、ダンピングによる価格効果、量効果など九つの実質的な争点のうち、八つに対して韓国勝訴の判断を示した。ただ、一部の価格効果分析が不十分で、日本の製品が韓国メーカーに被害を及ぼしている因果関係の立証を十分にできなかったとして、ダンピングによる因果関係を巡る争点の一部では日本側の訴えを認めた

上級委は、九つの実質的な争点のうち七つについては一審の判断を維持したが、価格効果に対しては日本に有利に判断を覆した。ただ、一審で韓国が敗訴していた一部の因果関係に関しては韓国が勝訴。結果として、韓国は最終審で九つの実質的な争点のうち八つで勝訴した。また、一審のパネルは四つの手続き面での争点のうち二つに対して日本の訴えを認めており、上級委はこの判断を維持した。

上級審で「最終審で九つの実質的な争点のうち八つで勝」ったから「韓国が大部分に勝訴」ということ? だが、この種の勝ち負けは「争点の量」の問題でなく「争点の質」、「その結果がどちらにより痛手になるか」ということだろう。「骨」を断たれても嵩の張る「肉」が残れば良いというのか!

Bloombergは「これ(*WTOの勧告)を受け、TPCメカトロニクスやKCCなど韓国メーカーが競争激化に直面する一方、SMC、CKD、豊興工業など日本メーカーが恩恵を受ける可能性がある」と報じている。つまり、11.6-22.7%の反ダンピング関税が縮小乃至は撤廃の方向に進むということだ。

最後にWTOの発表の中身を少し見てみよう。膨大なので「6.FINDINGS AND CONCLUSIONS(所見及び結論)」の一部の要約のみとする。元々のパネルの所見自体を精査していないのでおおよその感じのみになるが、どうかご容赦願いたい。(拙訳による)


6.2.1 国内産業の定義に関する日本のクレーム7が、その委任事項の範囲外であるとの所見でパネルは誤りを犯したか

結果 パネル報告書の7.67と8.1.aの所見を覆し、日本のクレーム7はパネルの委任事項の範囲内と認める


6.3.1 ダンピングされた輸入量に関する日本のクレーム1が、その委任事項の範囲内にないとの所見でパネルは誤りを犯したか

結果 パネル報告書の7.94および8.1.bの所見を覆し、日本のクレーム1はパネルの委任事項の範囲内と認める


6.3.2 価格の影響に関する日本のクレーム2が、その委任事項の範囲外であるとのパネルの所見が誤りかどうか

結果 パネル報告書のパラグラフ7.131および8.1.cの所見を覆し、日本のクレーム2はパネルの委任事項の範囲内と認める


6.3.3 ダンピングされた輸入品の国内産業への影響に関する日本のクレーム3の部分が、その委任事項の範囲内になかったとの所見でパネルは誤ったか

結果 パネル報告書のパラグラフ7.175の「日本が主張する3.4条と矛盾する他のすべての申し立ては適切にパネルの委任事項の範囲内にない」こと、およびパネル報告書のパラグラフ8.1.dの「ダンピングされた輸入品が国内産業の状態に与える影響に関するダンピング防止協定の第3.1条および第3.4条に基づく日本のクレーム」はパネルの委任事項の範囲内にないこと、そして上記の三件の申し立てはパネルの委任事項の範囲内にあると判ったので、パネルの所見を覆す


6.3.4 パネルは、日本のクレーム4がその委任事項の範囲内にあるかどうかを誤ったか

・結果 パネル報告書の7.235および8.2.cの所見を支持する


6.3.5 日本のクレーム5の一部がその委任事項の範囲内であるとの所見でパネルは誤ったか

結果 パネル報告書の7.241および8.2.dで、反ダンピング協定の第3.1条および第3.5条に基づく日本の主張が、韓国調査当局による調査の不首尾に関している限りにおいてパネルの所見を支持する


6.3.6 パネルが日本のクレーム6が、委任事項の範囲内であると所見したことに誤りがあるか

結果 パネル報告書の7.226および8.2.bの所見を支持する。


6.3.7 ダンピングのマージンの影響度

結果 パネル報告書のパラグラフ7.189、7.192および8.3.aで、韓国調査当局が反ダンピング協定の第3.1条および第3.4条のダンピングのマージンの影響度の評価に関して矛盾した行動をとったことを、日本は認めさせられなかったというパネルの所見を支持する。


6.3.8.1 パネルが日本のクレーム6に取り組む際に第3.5条の解釈または適用で誤りを犯したか

結果 国内市場の価格に対するダンピングされた輸入の影響の韓国の分析の欠陥のせいで、韓国調査当局がその分析の結果において、反ダンピング協定の第3.1条および第3.5条と矛盾して行動したことを日本が証明したパネル報告書のパラグラフ8.4.aにおけるパネルの所見を覆す


6.3.8.2 パネルが日本のクレーム4に対処する際に第3.5条の解釈または適用に誤りを犯したか

結果 パネル報告書の8.3.bで、韓国調査当局がダンピングされた輸入品の結論に関して、日本はダンピング防止協定の第3.1条および第3.5条と矛盾した行動をとったことを証明していないというパネルの所見を支持する


6.4.1 情報の機密扱いに関する日本のクレーム8および9が、その委任事項の範囲内であるのパネルの所見は誤りかどうか

結果 パネル報告書のパラグラフ7.418と8.2.eの所見を支持する


6.4.2 パネルがダンピング防止協定の第6.5条の解釈または適用に誤りを犯したかどうか

結果 正当な理由を示すことを要求することなく申請者によって提供された情報によって、韓国調査当局が情報の機密扱いに関する反ダンピング協定第6.5条と矛盾した行動をしたことを日本が証明したという、パネル報告書の7.441、7.451および8.4.bの所見を支持する。


6.4.3 反ダンピング協定第6.5.1条の適用でパネルが誤りを犯したかどうか

結果 パネル報告書の7.450、7.451および8.4.cの所見を支持する。日本は、提出当事者が機密扱いを求められている情報の十分な非機密要約を提供することを要求せずに、韓国調査当局がダンピング防止協定の第6.5.1条と矛盾して行動したことを証明した。


6.5.1 本質的事実の開示に関する日本のクレーム10は、その委任事項の範囲内にないとのパネルの所見が誤りか

結果 パネル報告書のパラグラフ7.517と8.1.fの所見を覆し、日本のクレーム10はパネルの委任事項の範囲内と判断する


以上、日本は6.4.2や6.4.3のような不用意なミスをいくつか犯したようだが、韓国への是正勧告を勝ち取ったことは評価できる。自らの報復を棚に上げて、韓国は日本によるホワイト国外しをWTOに提訴した。政府には今回の件に油断することなく緊張感を以て対処して欲しい。

高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。