小泉環境相が就任早々の福島第一原発事故に関連したスタンドプレーにより、福島県沖で取れた魚の「風評被害」がクローズアップされましたので、思うところを記したいと思います。
福島第一原発周辺ではトリチウムを自然界よりも多めに含んだ水(処理水)が大量に備蓄されていて、近い将来、満杯になると予想されています。
結局、海に流す以外の解決策はないのですが、この解決策については、福島県の漁協が「風評によって捕れた魚の商品価値が下がる」として反対しています。
処理水が海に放出されてると、マスコミがあたかも人体に有害な物質が海に放出されると騒いで、これによって消費者は福島県沖で取れた魚を買わなくなるという風評被害が起こるので、福島県の漁協の立場に立てば、処理水の放水放出に反対してできる限り遅くさせることは合理的です。
風評被害というのは、売り手にとっては品質に問題がない商品であっても消費者に買ってもらうことができなくなり、消費者にとっては品質に問題がない商品であっても誤った情報を得ているのでその商品を選択することができず、購入する商品の選択肢が減ります。社会全体の影響でみれば、経済活動が停滞し、税収も減ります。
しかも不安を煽って誤った情報をまき散らしたマスコミが儲けるという社会にとって最悪の結果となるので、「風評被害」は絶対に防がなければならない問題であり、誤った情報をまき散らす連中には断固とした態度をとる必要があると思っているのですが、そのような意見はほとんど聞かれません。
小泉進次郎氏も風評と戦うのではなく、風評被害が起こることを前提に「風評の被害者と寄り添う」とか言っています。
前述の通り、「風評被害というのは、生産者にとっても、消費者にとって、社会全体にとっても、損害を被ることとなり、風評をばらまいたマスコミが儲けるという最悪の事態」となる訳ですが、ここで疑問となるのは、「風評被害は絶対に起こしてはならない」という認識を社会で共有できないのはなぜかということです。
マスコミに業界とは全く無縁な私なりに考えた結論は以下の通りですが、いかがでしょうか?
1. 風評はマスコミにとっては都合がいいから
マスコミにとっては、「風評」とは言わないまでも、視聴者や読者の不安を煽って視聴率や販売量を稼ぐのは常套手段です。不安を煽って収益を上げることをビジネスモデルにしているマスコミにとっては、「福島第一原発の処理水が人体にとって有害である」と一般に認識されていることは、「都合がいいこと」であり、誤った認識を修正するような報道を行ったりはしません。
また、誤った認識を修正するような動きには無視することで対応します。この点については、マスコミ業界で一致団結して無視しているので、自分自身で処理水の有害性について調べるような物好き以外の人は漠然と「処理水は有害」と認識している状態が維持されています。
マスコミが誤った情報で不安を煽っていることについて批判されると、「処理水が絶対に安全とは言えない」とか、「処理水の安全性が証明されたわけではない」という常套句によって批判をかわすことができるので、風評が信じられている状態が続きます。
2. 消費者は風評によって自分に実害が出ているとは認識していない
ものが溢れる時代にあっては、一地方の産品が供給されなくなっても、他の地域の産品で代替できるのであれば、消費者は表面的には困りません。品質に問題のない産品を作っている生産者が困ったとしても、テレビで危ないと言われている産品の安全性をいちいち自分でチャックすることは面倒なので、そんな商品には手を出さないというのは合理的な判断なようにも思われます。
しかし、そのような行動が目に見えない形で消費者の選択肢を狭め、競争が阻害されることによって価格の上昇をもたらして、消費者に損害を与えています。
3. 自分で処理水の備蓄コストを負担していることを知らない
福島第一原発周辺の貯水タンクの映像を見れば、その貯水のためのコストは誰が負担しているのだろうと疑問に思うのですが、他の人は思わないのでしょうか?もしかしたら、憎たらしい東電の社員の給料を減らして貯水のコストに充てていると思われているのかもしれませんが、主には東京電力管内に住んでいる人の電気代で負担されています。
東京電力管内に住んでいる人は科学的には全く効果の対策のせいで電気代が上がっていても問題があるとは思わないのでしょうか?現代では、電気を使わない生活をすることはほとんど不可能なので、電気代が上がると、自分だけではなく、特に所得が少ない人の生活を直撃して重い負担を強いることになります。
最後に
報道機関の役割は「知らないことを知らせる」だけでなく、「社会に誤った認識があればそれを修正する」ということもあると考えているのですが、それともマスコミには「安全なものを安全という責任はマスコミにはない」のでしょうか?
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井上 孝之
科学に携わる者として、石原元都知事の「科学が風評に負けるのは国辱だ」という言葉が胸に刺さって、敗北感に打ちひしがれている技術系サラリーマン