オーストリア極右指導者の政治生命の終わり?

ハインツ=クリスティアン・シュトラーヒェ氏(50)の政治生命に終わりが近づいてきたのかもしれない。オーストリアの極右党「自由党」党首を14年間務め、欧州の代表的極右指導者として暴れまわってきたが、イビザ島スキャンダル事件がメディアに報道されて以来、ボクシングのサンドバッグのように叩かれ続けてきた。そしてウィーン検察当局は26日、同氏を党資金の不正使用という背任容疑で起訴したのだ。

有罪判決となれば、最高3年の禁固刑だ。野党指導者として政権を揺さぶり、クルツ連立政権に参加した後は副首相として活動してきたが、同氏を取り巻く状況は次第に厳しくなってきている。

シュトラーヒェ氏、自由党の党首と副首相ポストを辞任(オーストリア国営放送から、2019年5月18日)

イビザ島スキャンダル後のシュトラーヒェ氏の辞任を受け、新党首に就任したノーベルト・ホーファー氏は、「総選挙実施直前、わが党をバッシングする動きが強まってきた。何者かがわが党の活動を抹殺するため恣意的に工作をしている」と述べている。

オーストリアでは29日、国民議会(定数183)の早期総選挙が実施される。その3日前に前党首が党資金の背任容疑で起訴されたわけだ。総選挙と前党首の起訴は何らかの関連があると推測する声は聞こえる。不法難民・移民問題を選挙争点に挙げて躍進し続けてきた自由党へのバッシングがここにきて強まってきているからだ。

まず、自由党を取り巻くオーストリアの政情について、以下、まとめる。

2017年12月:前回選挙(2017年10月)では不法移民・難民対策が選挙争点となり、国境警備の強化など厳格な対応を主張した「国民党」が第一党にカムバック。「自由党」も強硬な移民政策で有権者にアピールして大飛躍。その結果、「国民党」と「自由党」の中道右派連立政権が同年12月に発足した。

2019年5月:独メディア、週刊誌シュピーゲルとドイツ南新聞はシュトラーヒェ氏のスぺインの避暑地イビザ島での言動をスクープして報じた。同氏がロシアの富豪家に対し、党献金を要求する一方、その引き換えに公共事業の受注やオーストリアのメディア買収などを持ち掛けていた会話が何者かによって録音され、そのビデオがメディアに流された。それを受け、シュトラーヒェ氏は辞任。議会で5月末、不信任案が可決され、同政権は発足1年半あまりで崩壊。それを受け、早期総選挙となった。

その後、自由党関係者が同国最大の極右団体「イデンティテーレ運動」に関与し、献金もしていたことが発覚し、自由党は一層窮地に追い込まれた。同運動のリーダー、マーティン・セルナー氏はニュージランド、クライストチャーチのイスラム寺院銃乱射事件(3月15日)で50人のイスラム教徒を殺害したブレントン・タラント被告とコンタクトがあり、献金を受けていた人物だ。その指導者と自由党の関係がメディアで報道されるなどして、「自由党」への風当たりは一層厳しくなった。

2019年9月:シュトラーヒェ氏のボデーガードを務めていた人物がシュトラーヒェ氏の党資金の背任問題をリーク、同人物が検察側にその全容を告発。それを受け、検察当局はシュトラーヒェ氏を党資金の背任容疑で起訴した。投票日3日前のことだ。

ホーファー新党首は、「投票日を控え、わが党を叩くための工作だ。もちろん、前党首の問題で『黒』と出れば、党規則に従って対応する」と述べ、投票結果を受けて党幹部会が10月1日開催されるが、そこで前党首への対応なども話し合われるという。シュトラーヒェ氏の党籍排除もその選択肢に入っていることを示唆している。

ホーファー氏にとって懸念材料はシュトラーヒェ氏の扱いだ。14年間、党首として小政党に過ぎなかった自由党を中政党に飛躍させ、政権入りさせた指導者は党内でも多くの支持者を抱えている。その人物を冷遇する場合、自由党の分裂もあり得るからだ。同党では一度、シュトラーヒェ氏の前任者イェルク・ハイダー氏が党を分裂させ、新政党「オーストリア未来同盟」を創設したことがある。

同国の複数メディアによれば、クルツ前首相の国民党が支持率32%から35%、第2党に野党第一党社会民主党が23%前後で健闘、それを追って自由党が18から20%と予想されている。ちなみに、前回の選挙で議席を失った「緑の党」のカムバックは確実で10%前後、リベラル派「ネオス」が8%の支持率とみられている。

自由党前党首が起訴された段階で、自由党との連立を模索する政党が出てこないことから、クルツ国民党が第一党となったとして、議会で安定政権を運営するためには他の連立パートナーが不可欠だ。国民党の少数政権の発足もささやかれているが、選挙後の連立工作の難航は避けられない。同時に、自由党の選挙後の動向はここしばらくは不透明さを深めていくだろう。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年9月28日の記事に一部加筆。