ウルグアイが中国への牛肉輸出急増、自国民は輸入肉だのみの事態

白石 和幸

南米で牛肉の生産が盛んな国はブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイだ。ところが、ウルグアイでは輸出業者が喜ぶ一方で、国内消費者は残念がっているという現象が起きている。

その現象とは、ウルグアイから中国向け牛肉の急激な輸出増加で、国内で国産牛肉が不足するという嘗て経験したことのない事態が発生しているからだ。その影響で、牛肉の輸出国が隣国のブラジル、アルゼンチン、パラグアイから牛肉を輸入せねばならなくなっている。

今年6月だけでも、前述3か国から3000トンの牛肉を輸入したそうだ。その中でブラジル産が大半を占めている。(参照:adnradio.cl

ウルグアイの食肉協会(INAC)によると、昨年の牛肉の国内消費は13万9927トン。今年は7月の時点で1万3000トンが輸入され、昨年同期の8000トンと比べ既に5000トンの輸入増加となっている。

この輸入が実施されている一方で、ウルグアイから中国向けに牛肉の輸出が盛んに行われているという具合だ。現在、ウルグアイの牛肉の全輸出量の62%が中国向けだというのである。しかも、この数年それが急激に増加しているそうだ。昨年比でも33.4%の増加。(参照:elobservador.com

ウルグアイはブラジルとアルゼンチンの間に挟まれた国で、国土面積は日本のほぼ半分であるが、人口は僅か350万人と国土面積と比較して人口は極めて少ない。ところが、牛は1300万頭が飼育されているというのだ。

国土の8割近くが家畜飼育の為の放牧地となっている。そこで牧草を食べて家畜が育てられており、既成の餌を与えてたり肥育ホルモン剤を使用するということが一切ない。ワクチン不使用口蹄疫清浄国の認定も受けている。ということで良質の牛肉生産国となっている。

価格は他国のそれと比較して割高となっている。現在FOB平均価格でトンあたり4044ドル。昨年はそれが3579ドルであったそうだ。その価格はブラジル産やパラグアイ産と比較すると5割程度高い。しかし、ウルグアイ産は品質が良いことが認められている。(参照:elobservador.comelpais.com

ウルグアイの牛肉はもともと割高だということで、余談になるが、ぺぺ・ムヒカ元大統領がまだ牧畜大臣だった2005年は経済不況から抜け出したところであった。ムヒカは牧畜生産業者と販売業者との間で協定を結ばせて牛肉を低価格で消費者に提供することに成功した。ウルグアイ人にとって牛肉は欠かせない食料だ。それが価格的にも消費者の手に容易に入ることが出来るようになって消費も伸びた。

ムヒカの政治手腕を称えてそれ以後大衆料理の焼肉「アサド」を国民は『ぺぺのアサド』と呼ぶようになったほどであった。それから5年後にムヒカは大統領になるのであった。彼の苗字が示すようにスペイン・バスク地方をルーツに持つムヒカは今もスペインは勿論のことラテンアメリカでご意見番として各国の指導者やメディアから尊重されている。

しかし、中国からのウルグアイ産牛肉の重要の伸びを前に価格が20%から25%の値上がりを見せてそれが国内市場にも波及している。それを前にして、ムヒカの政治手腕で価格の上昇を抑えようとしてももう手の届かないところにまで行ってしまっている。(参照:elpais.com

そこで値上がりを抑え国内需要を満たす為にウルグアイの主要3社が隣国からの牛肉の輸入に踏み切ったのであるが、ウルグアイでは輸入した牛肉を扱うには抵抗があるという。これまで国産牛肉で市場は満たされていたからである。街の肉販売店は意地を張って輸入した牛肉を扱おうとせず、スーパーでそれが販売されているのを批判している。

一方のスーパーでは国内産のそれとは遜色ないといった感じのラベルを貼って販売しているという。ウルグアイではこのような現象はこれまでなかったことから、商法で販売商品の原産地を明確にせねばならないという義務がないのである。

中国人の一人当たりの牛肉の年間消費量は5.8キロだという。それが仮に一人当たり100グラム消費が増えたとすると、一挙に14万トンの需要増加になるという。2017年統計で年間59キロの牛肉を消費するウルグアイの消費者はこれからますます輸入牛肉に馴染まねばならなくなりそうだ。

因みに、すべての肉類の消費となるとウルグアイの一人当たりの消費量は110キロをになるそうだ。彼らにとって肉は野菜以上に大事な食料なのである。(参照:elpais.com

因みに日本は9年の交渉の末、今年2月にウルグアイから牛肉の輸入が19年振りに再開された。2000年にウルグアイからの牛肉に口蹄疫が検出されて輸入が禁止されていたのだ。解禁となって最初の輸入量は4091キロで、「今後ウルグアイの全輸出量の5%を日本が輸入してくれるようになると満足だ」と食肉協会の代表が昨年語った。(参照:presidencia.gub.uy

 

白石 和幸
貿易コンサルタント、国際政治外交研究家