「環境保護後進国」中国とグレタさん

長谷川 良

中国共産党政権がスウェーデンの16歳の環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんの動向に強い関心があったとしても不思議ではない。世界の人口の6分の1を占める人口大国・中国の環境問題は深刻だ。中国一国の問題ではなく、地球レベルの問題だからだ。中国の大気汚染を解決できれば、世界の大気汚染問題も大きく改善するだろう。

グレタ・トゥ―ンベリさん(Facebookより:編集部)

だから、グレタさんが中国の環境問題に関心を持ったとしてもこれまた不思議ではない。双方の関心に共通点がある限り、両者が接触するチャンスは出てくるわけだ。

中国は土壌汚染、水質汚染、大気汚染に悩み、ここにきて残留性有機汚染物質(POPs)に関するストックホルム条約の重要さに目覚めて、国際機関の支援を受けてPOPs対策にも乗り出してきた。世界2位の経済大国にのし上がった中国の無謀な環境破壊に悩んできた隣国にとっては朗報かもしれない(「環境保護対策の後進国・中国の選択」2019年4月14日参考)。

その中国が密かに熱い関心を注いでいる人物が、世界に地球温暖化を警鐘するグレタさんだ。海外中国メディアの「大紀元」は先月30日、そのグレタさんと中国共産党政権の間に接点があることを報じている。

グレタさんが英国から大西洋をヨットで横断し、ニューヨークの国連総会で地球温暖化を警告し、対応に消極的な世界の指導者に怒りをぶっつけた演説はメディアで報じられたが、海外の中国反体制派メディア「大紀元」が伝えたところによると、グレタさんの国連総会での様々なイベントを準備し、調停した環境団体が米国委員会から「中国共産党政権の代理人」の疑いがあると指摘されてきた法律事務所というのだ。

グレタさんらが参加した気候変動サミットは9月23日、世界12カ国から16人の若者が結集し、そこで気候変動に関する政府の行動が欠如していると明記した非難声明がまとめられ、ユニセフ主催の記者会見で発表されたが、グレタさんらの活動を陰で支援したのは、法律事務所「ハウスフィールドLLP」(Hausfeld LLP)と米国の環境保護法律事務所「アースジャステス」(Earthjustice)の2つの法律事務所だという。両事務所は世界の環境活動家の訴訟を代行している。

それだけではない。環境団体と外国政府の関係を調査する米下院天然自然委員会は昨年10月、「アースジャステス」が中国政府の意向に沿って活動しているとして、「外国人代理人」カテゴリーに入れる意向を明らかにしているという。外国人代理人となれば、米政府は毎年、財政報告、活動報告の提出を要求できる。

さらに看過できない事実は、同法律事務所は日本の沖縄県で継続的に米軍の行動に反対する活動を行っている環境活動団体・生物多様性センター(CBD)と協調して反基地活動を支援していることだ。大紀元によると、「米空軍海兵隊の普天間飛行場から名護市辺野古の移設には、絶滅危惧種の哺乳類ジュゴンの生態を侵害するとして、移設反対運動を展開している」という。

大紀元によれば、「アースジャスティスは、米軍による沖縄の基地移転を阻止するために、2003年、ジュゴンを含む環境問題を訴えるCBDと日本の団体の代理として米国で訴訟を起こした。2018年8月にサンフランシスコ連邦地方裁判所はCBDを敗訴としたが、CBDは控訴した」という。アースジャスティスは裁判の他にも、基地移転を阻止するために米国内外でロビー活動を行っている。

▲中国の大気汚染対策を支援するWRI

▲中国の大気汚染対策を支援するWRI

中国と関係がある環境問題を扱う団体は「アースジャスティス」だけではない。大紀元によれば、ワシントンDCにある環境問題のシンクタンク、世界資源研究所(WRI、World Resources Institute)は北京公安局と中国生態環境省の「指導と監督」の下で機能しているという。「WRIの指導者は、中国政府および共産党の高官と定期的に交流し、官製紙・中国日報や中国政府のプレスリリースおよび論説について肯定的な見方を宣伝するなどして、中国の環境プログラムを擁護する一方、国連で、米国のエネルギー使用に制限を課すよう要求し、中国の主張を庇護している」という。

話は中国共産党政権とグレタさんの関係に戻る。中国当局はグレタさんが参加する国際シンポジウムなどを親中派の法律事務所を通じて監視する一方、グレタさんの環境保護活動を内外両面から支援している疑いが浮かび上がってくるわけだ。その狙いは、環境問題を中国主導でリードしつつ、トランプ米政権の環境保護政策を批判することだろう。

グレタさんの環境保護活動が世界的に注目されてきた今日、「中国の代理人」とみられる法律事務所を通じて中国政府がグレタさんの活動を誘導しようとしていると報じた大紀元の記事は注目に値する。大紀元の報道に関心がある読者は下記のリンクへ。

グレタさんを支える環境団体、中国政府の代理人の疑い 沖縄「ジュゴン裁判」も担当

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年10月2日の記事に一部加筆。