小泉氏擁護で注目「リア充リベラル」を4年前から意識した出来事

新田 哲史

ネットからテレビまで、小泉進次郎氏への厳しい風当たりを見ていると、わずか1年でこんなに風景が変わるとはと思う。アゴラで筆者が初めて小泉氏を厳しく批判したのが昨年7月(「本当に名誉のブーイング?小泉氏は今のままなら徳川慶喜にもなれない」)。そのころは、政務官しか経験のない30代の小泉氏を「ポスト安倍」と持ち上げる風潮がはびこり、アンチ自民の左翼などを除くと、小泉批判論者は目立たず、中小メディアにすぎないアゴラで取り上げても、さほど影響はなかった。

ANNニュースより

小泉批判のタブーから一変した1年間のメディア風景

ほんの少しだけ変化の兆しを感じたのが、昨年の今頃だ。新潮社のデイリー新潮に拙稿(「小泉進次郎『化けの皮』が剥がれた?」)を寄稿したのだが、アゴラが「追放」されたヤフーニュースに繋がっているだけあって、それなりに拡散。小泉氏のPRブレーンの存在などを一部実名入りで指摘した論考が物珍しかったことも受け、デイリー新潮の政治記事で記録的なアクセス数だったようだ。

しかし、その原稿はいくつかの大手メディアに掲載を相次いで断られたものだった。「未来の総理」が確実視されていた小泉氏を批判するというメディアタブーの強さを痛感させられた時でもあった。わずか1年前の時点では、メディアも彼の中身のなさ、ブランディング頼みの危うさに薄々気づきながら、正面から批判することを恐れていたのだ。

そして、小泉氏が初入閣し、メッキが剥がれ、メディアは手のひら返しで「袋だたき」にしているのは周知の通りだが、デイリー新潮に昨日、1年ぶりの続編となる「小泉進次郎、PR戦略で墓穴 それでも応援する“リア充リベラル”の人たち」を掲載させてもらった。

小泉氏本人への批判は周回した感があり、本稿で注目したのは人物関係だ。それも「この期に及んで小泉氏の擁護に“必死”な人たち」(本文より)。彼らに興味を持った筆者は、小泉シンパたちに一程度、共通する属性があることに気づいた。それは本来の自民党支持層や安倍政権のコア支持層とも異なり、旧来型のオールド左翼、山本太郎氏や共産党を支持する人たちとも階層が違うのだ。リベラルでもいかにも左派というのとは違う彼らを、「リア充リベラル」として紹介した。

「リア充リベラル」想起の原点となった選挙

「リア充リベラル」がどんな人たちか、小泉シンパの誰が当てはまるかは、先述の記事をお読みいただきたいが、この言葉、実は今回初めて思いついたものではない。概念レベルとしては4年前から存在していた。

その証拠にアゴラで当時書いた記事が残っている。2015年3月末に掲載された「渋谷区長選に緑の鳥が羽ばたいて統一選の目玉に」。当時は編集長になる前で、アゴラには週1回の打ち合わせ時だけ出入りする素浪人のPRコンサルタントだった。記事はその翌月に控えていた東京・渋谷区長選に、長谷部健さん(当時区議)が出馬する意向が判明し、選挙戦の構図が固まったことを伝えた。(念の為に付記すると、長谷部さんや支援者とは友人ではあったが、陣営の中の人ではなかった)

この区長選で、完全無所属の長谷部さんが、与党系候補と野党系候補を低投票率の中で打ち破るという「ジャイアント・キリング」を演じ、政界に衝撃を与えたことはご記憶の方も多いだろう。この選挙戦、いま思うと、のちの政界の動きを先取りするものがあった。具体的には野党系候補は、民主党(当時)と共産党が事実上、一緒に支援され、その約半年後の国会の安保法制審議を機にできあがった野党共闘の先駆けとなったものだった。一度は政権与党になった民主党が、共産党と手を組むという恥さらし路線はこの区長選が草分けだったのだ。

桑原ー長谷部

桑原前渋谷区長の応援を受ける長谷部氏(筆者撮影、2015年4月)

そして、選挙の構図を書く際にふと疑問が浮かんだ。長谷部さんはLGBTパートナーシップ条例を推進するなどリベラルな価値観の持ち主。野党系とはリベラルという点では共通するが、一緒くたにするには違和感が大きい。年齢的に長谷部さんが若いという違いはあるが、それだけだと物足りない。というのも、お掃除NPOグリーンバードを全国に普及させた本人や、支援者たちの言動、理念から感じる「時代を先取りするオーラ」をうまく表現したかったのだ。

野党系候補の陣営は、色あせた旧来型リベラルの印象もあるのだが、共産党が加わったというインパクトはその当時大きい。陣営は老朽化した区役所の建て替えに反対など、いかにも共産党チック。そこで彼らの支持層ターゲットを考えて、脳裏に浮かんだのが「プア充」。対照的に、NPOやソーシャルビジネスの先達でもあった長谷部陣営を「意識高い系」と見立てて差異化した。そして記事では、伝統的な与党勢力も含めた三つ巴の構図を「旧勢力 VS プア充 VS 意識高い系の戦い」と評した。

4年を経ての「因縁」

長谷部陣営のことは意識高い系と記載したが、「リア充」の言葉が浮かんでいたのは言うまでもない。「リア充リベラル」と明記するようになったのはその後だが、東京の最先端の街の選挙戦らしい支持層の違いを表現できたとは思ったものだった。

なお、この選挙戦、外野ながら応援記事を何本か書かせてもらったが、当時の経済ニュースで注目された大塚家具のお家騒動に引っ掛けた論考をエントリー。これをツイッターで拾ったのが(仕込みなし)、まさに今回デイリー新潮で「リア充リベラルの大御所」として紹介したこの方だった。

文面からすると、夏野氏は長谷部さんに投票されたのかもしれないが、4年の歳月を経て、まさかこういう形で今回繋がるとは(苦笑)。図らずも小泉シンパとしてここにきて、脚光を浴びつつある「リア充リベラル」を巡ってはこれからも是々非々で色々論じてみるつもりだ。

新田 哲史   アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」