森ゆうこ議員の通告問題:第二幕は論点整理が必要だ

高橋 富人

今回の森氏の通告問題は、国民民主党の記者会見とともに第二幕がはじまったようだ。

NHKニュースより:編集部

本件、原口国会対策委員長の発言等により、興味深い論点が多数提示された。それらを一つ一つ丁寧に整理すれば、国政地方問わず実りある議論となるだろう。

他方、実にいろいろな議論がごった煮になって「バトルロイヤル」的様相を呈していることから、このままいくと単なる罵り合いで終わってしまう可能性もあるため、整理する。

私としては、以下4つの論点を取り上げたい。

  1. 国会のスケジュールに関する議論
  2. 通告とレクのタイミングに関する議論
  3. 通告とレクの「意義」に関する議論
  4. 通告とレクの内容が漏洩したとされる件に関する議論

1.  国会のスケジュールに関する議論

私の認識が正しければ、本件に係るところでいう議会での質問の事務手順は、「通告→レク→質問」だ。通告の前に議員が役所にヒアリングに行くことを、一絡げに「レク」と呼ぶ議員もいるが、ヒアリングはあくまで質問項目を確定させる前の行為である。そのため、ここでは混乱を避けるために「ヒアリング」と「レク」は分けて表現する。

通告の締め切りが11日金曜日午後4時30分。森氏の質問は15日火曜日。中3日間はすべて祝日を含む休日だ。とすると、締め切りぎりぎりに送付された通告に対するレクは事実上「無理」というスケジュールになっている。

ここで、今回の件の事務に関する議論としては、地味ながら一番大きなものだと思うのだが、「そもそも国会のスケジュールは、無理があるのではないか?」という点だ。レクを前提とするなら、もっと余裕を持とう、という話だと思うのだが、国会というのはそういうわけにいかないのだろうか?知見のある方に、ぜひ教えてほしいと考える。

2.  通告とレクのタイミングに関する議論

記者会見を見る限り、記者の方々もこのあたりの事情が今一つのみこめていないために、踏み込みが浅いように感じられた。

先述のとおり、「レク」というのは通常、「通告」の後、質問する議員と官僚との間で行う質問内容のすり合わせであり、ミーティング形式で行われる。今回の件で特殊な点の一つに、台風襲来によりレクができないため、森氏は質問内容に関する補足資料(以下「レクペーパー」とする)をFAX送付した、という点がある(この「レクペーパー」については、記者会見で原口国会対策委員長が、そのような趣旨の発言をしていたことを前提にしている。とはいえ、原口氏は「レクペーパー」という言葉は使っていなかったので、そのあたりはご注意されたい)。

よって、記者会見では「通告」と「レクペーパー」をしっかり分けて聞く必要があったのだが、そこがあいまいに感じられたのが残念であった。

さて森氏は、通告については定刻どおり出したのは間違いないようだ(他方、17日池田信夫氏の論考で、当該通告は実は24時25分に差し替えられた、とする情報が証拠文書画像付きで公表された。そうなると、そもそも森氏は規定違反した、というところから議論する必要がある。確定情報を待ちたい)。

とすると、ここでの争点は

a. 森氏のレクペーパーは、どのように提出され、何時に送付完了したのか。
b. 15日に質問に立った他の議員は、「通告→レク」をどのように実施したのか。
c. 森氏のレクペーパーの内容はどのようなものだったのか。

という点だ。

「a.」は、先にあげた「国会のスケジュール問題」を前提にすると、森氏も気の毒な面がある。あのスケジュールでは、時間的にレクをするタイミングがないのだ。また11日の夕方は、あのとおり「災害の最中」でもあった。よって、レクペーパーをFAXで送付したのだ、という理屈もある程度理解できる。とはいえ、台風が来ることは予報上確定していたのだから、状況を勘案し「通告→レク」を前倒しできなかったのか?という疑問は残る。森氏のふるまいがことさらに非難されているのは、そういった配慮が欠けていたからではなかったか?

そこで論点「b.」が発生する。15日質問にたった他の議員は、「通告」と「レク」をどのようにしていたのか、という点だ。私が不思議に思うのは、他の議員はまったくそしりを受けていないことだ。

とはいえ、文書化された参議院規定を前提にすれば、国民民主党記者会見での原口国会対策委員長の「森氏の通告は時間通り(24時25分に差し替えられず)行われていた」という情報が正しいならば、森氏のふるまいは少なくとも「ルール違反」ではない。記者会見では、11日当日発生した森氏と省庁とのやり取りを時系列に記した資料を配布したようだ。国民民主党や森氏の公式サイトでは探しきれなかったが、当該資料をぜひ拝見したい。

「c.」はどうだろう。現時点では、私は森氏の「レクペーパー」を見ていない。

この内容が、もし通告内容とほぼ変わらない「内容が薄い」ものだったとしたら、単に官僚の帰宅を遅らせるためだけの代物ということになり、非難されて然るべきだろう。

他方、森氏の質問映像を見たところ、ある程度質問内容は官僚側に伝わっていたように感じられた(とはいえ、「災害救助法における4つの原則」についてクイズを出すような、通告なしの無意味なふるまいもあるにはあったが)ことを勘案すると、「レクペーパー」もある程度しっかりした内容だったことが推測される。

だとすれば、すでに質問も終了しているので、森氏はレクペーパーを公表してはどうだろう(もし公表されていたら、私の調査不足をお詫び申し上げる)。そうすれば、少なくともレクペーパーの内容に関する議論は先に進む。

3.  通告とレクの「意義」に関する議論

私が、本件に関する記者会見で一番違和感を持ったのは、この「意義」に関する森氏、及び原口国会対策委員長等の認識だ。

私は、議員になって日が浅くはあるものの、議会での質問における「通告」と「レク」は、先の論考のとおり、質問内容について役所側と認識を共有/すり合わせすることで、論点を明らかにするとともに、質問を実りあるものにするためと考えている。

「またまた、いい子ぶっちゃって!」と思う人もいるかもしれないが、こればかりは本当にそうなのだ。

ちなみに、私が議員を務める佐倉市では、「通告→レク」の後、議会で「ほぼそのまま読み上げる」原稿そのものを、役所で用意した取りまとめ用メールアドレスに送付する。すると、役所の担当者はその原稿を、質問の担当部課に送付してくれる。

この行為の意味するところは、議会での質問の前に、「通告」内容はおろか、話す内容のほぼすべてを役所側に明かすことに他ならない。

確かに、自分の原稿を役所側が他の議員に見せるというのは重大な漏洩問題となるだろう。一般的に、他の議員の質問内容を「盗んで」、先に議会にかけてしまうことで、当該議員の質問を潰しにかかる嫌がらせもあると聞く(佐倉市がそうであるわけではない)。

そういった漏洩問題が発生しないのであれば、むしろ議員は積極的に、役所とすり合わせをしたくなるはずなのだ。

国会というのは、そうではないのだろうか?たとえば、日本は議員内閣制であるため、内閣を政権与党が組閣する。そのため、提出した「通告」や「レク」が、自民党に筒抜けになってしまうことが問題なのだろうか?

とするならば、そもそもこれまで実施していた「通告」や「レク」は、その問題をどのように回避してきたのだろう?一人の国民として、そういう根本的なところを、この機会にぜひ知りたいと思う。

私の調査能力不足なのか、なぜか10月17日現在、昨日公開されていた本件に関する記者会見動画がネット閲覧できなくなってしまったので確たることは言えないが、国民民主党の原口国会対策委員長は「官僚の作業を少なくするため」に「通告」および「レク」を実施していたが、「漏洩により信頼関係が崩れた」ために今後「レク」を実施しない、という趣旨のことをおっしゃっていたと記憶している。

国会では、「レク」は、「官僚の作業を少なくするため」であって「議論を実りあるものにする」のではないとすると、原口氏の言う通りだろう。

しかし、もしそうではないならば、国民民主党が言っている「漏洩」があったとしても、それをなくすための方策を提案することが、建設的な提言ではないだろうか。

私としては、「漏洩したから、信頼できないのでレクはやらないよ。」だとしたら、官僚との相互理解ははかれず、質問そのものが無駄になるので、税金の無駄遣いはやめていただきたいと言いたい。それとも、森氏が今回の予算委員会で実施したような「災害救助法における4原則クイズ」のような質問に意味があるとお考えなのだろうか。

そのあたりの整理を、ぜひ原口国会対策委員長に、国民民主党の見解として文書公開していただきたいと考える。

4.  通告とレクの内容が漏洩したとされる件に関する議論

漏洩だとしたら、これは大きな問題だ。

本件についてご存知ない方にざっくりと状況をお伝えすると、森氏の質問前日の14日に放映されたインターネット番組「虎ノ門ニュース」にて、出演者の高橋洋一氏が「私も(森氏の質問通告を)見た。私に関する内容も入っていた」、「役所から(情報が)来た」という話をしたという。つまり、森氏の質問の前に、高橋氏が質問通告の内容を見ていた、という件が情報漏洩にあたる、というのが、国民民主党の主張である。

さらに、松井孝治氏がTwitterにアップした文書についても、「漏洩事案」として問題視しているようだが、これはカウンターの意見として先述の池田信夫氏の論考がすでにあがっているために言及は控える。

さて、先の「虎ノ門ニュース」の件では、10月17日現在、森ゆうこ氏と高橋洋一氏との間で、Twitterで激しいやりとりが行われている。

現時点では「バーカ、バーカ」、「おまえこそバーカ」(山本一郎氏風)というマグマドロドロ状態で手を入れると火傷をしそうな様相なので、落ち着いたところで各氏のまとまった論考なり弁論を拝読/拝聴したいと思うにとどめる。

ただ、一点だけ言っておくと、この件は一定程度、先の「2.」や「3.」とリンクする話ではあるものの、現時点で「2.」や「3.」をいわゆる「漏洩事案」とからめてする議論は、間違いなく空転するので注意が必要だ。いわゆる「漏洩事案」を「2.」や「3.」とからめて議論する際は、いわゆる「漏洩事案」について双方の意見が出そろい、国民の大多数が「詰み」と考える状態になってからでないと、いずれの立場からの議題提起であっても議論のかく乱を狙った行為という非難はまぬがれないだろう。

以上が、「森ゆうこ議員の通告問題」に関する、現時点で私が考える論点だ。

森氏の当該予算委員会での発言内容については、今回はあえて踏み込まなかった。しかし一点だけ気になった点をあげると、私人の間の係争案件が含まれる内容を、議員特権を使って印象操作した原氏の特区WGの事案は、よほどの覚悟をもって(事実誤認であれば議員辞職する覚悟でなければできない発言も多々あった)されたのであろうという件も、今後より争点化されることになるだろう。

何はともあれ、ごちゃごちゃした議論でよくわからないまま本件を幕引きさせるのは国益にかなわないと考えため、少々長くなったが論点整理をさせていただいた次第である。

高橋 富人
千葉県佐倉市議会議員。佐倉市生まれ、佐倉市育ち。國學院大學法学部卒。リクルート「じゃらん事業部」にて広告業務に携わり、後に経済産業省の外郭団体である独立行政法人情報処理推進機構(IPA)で広報を担当。2018年9月末、退職。出版を主業種とする任意団体「欅通信舎」代表。著書に「地方議会議員の選び方」などがある。