日韓の対立がますます深みに嵌ってゆく一因は、やはりこの人たちが懸命に助長しているからなのだあ、と改めて認識させる記事が19~20日と2本続けて中央日報に載った。もちろんどちらの記事にも朝日の記事が引用されている。
安倍政権を貶めるためならありとあらゆる虚実を取り混ぜる朝日だ、その引用が関係改善に資するはずがないことは判っているだろうから、中央日報もまた日韓の関係修復を望んでいないのだろう。新聞といえども読まれてこその営利企業だ。
記事は2本とも韓国の李洛淵首相が22日の天皇即位礼参列に際し、安倍総理宛の文大統領親書を携えて来ることに関する韓国経済新聞の転載。先ずは19日の「“親書外交”メッセンジャーの李洛淵首相、ふさがった韓日対話の扉を開く?」を見てみよう。
冒頭、「韓国政府が22日の天皇即位式をきっかけにふさがった韓日関係を解決するための動きに入っている。しかし日本は首相官邸を中心に、日本企業の国内資産強制執行に対する韓国の前向きな立場が必要だという立場を維持しているため、先行きは不透明」とある。が、早々に首を傾げる。
日本政府は「日本企業の国内資産強制執行に対する韓国の前向きな立場が必要」としている訳ではない。この問題のキーワードを最初に述べれば、日本の要求は「韓国は国と国との約束を守れ!」の一語に尽きる。これ以外の何物もこの派生に過ぎない。
そして最悪なのは朝日記事引用部、こう書いてある。以下、太字は筆者
朝日新聞によると、韓国に対する日本の輸出規制措置は首相官邸が主導した。輸出規制とホワイト国除外決定を主導した経済産業省さえも序盤は対抗措置に消極的だったという。当時、経済産業省のある幹部は「拳を振り上げればどうやって下ろすのか。下ろした後の影響が大きい」と慎重な姿勢を見せた。
しかし経済産業省が用意した対抗措置に対して官邸側は「そんなことでは韓国は痛くもかゆくもない」とし、さらに強力な案を要求した。「戦いは先制攻撃をどのようにするかが重要であり、国内の世論はついてくる」とも話したという。
こうした首相官邸の強硬姿勢は安倍政権にプラスになるという計算もあったと、同紙は分析した。安倍首相の周辺では「韓日問題が支持率を引き上げた。韓日双方の世論が『もっとやれ』と過熱している」という話が出ているという。
真偽不明だが如何にも朝日らしい安倍政権への憎悪に満ちた書き振りだ。筆者は朝日記事を読んでいないが、韓国紙が嘘を書くとも思えない。これを読めば、特に反日でない韓国人でも安倍総理に対する憎しみがふつふつと湧くだろう。悲しいことだ。
次は20日の「韓日過去史の“遠心力”大きくなり安保・経済の“求心力”消える」という北東アジア歴史研究者のコラム。「李洛淵首相の22日の天皇即位礼出席と文在寅大統領の親書伝達でこれまで最悪に突き進んでいた韓日関係に多少改善の兆しが見えている」と書き始めるが、そうはなるまい。
両国の対立の核心は安倍政権のいわゆる右傾化政策とそれに対する韓国の激しい反発といえる。朝日新聞の箱田哲也論説委員は「韓日関係悪化は韓国側の日本に対する無知と日本側の悪意が作り出した共同作品」と話した。日本メディアは哨戒機問題の際に安倍総理室が岩屋毅前防衛相の意見を無視して強硬対応を主導したと報道した。
この研究者は「9ヵ月間にわたり日本の慶応大学で訪問学者として活動し現地の政治家、学者、ジャーナリストと会い日本の本音が何なのかを探求してみた」らしいが、会った相手が悪かった。
話は逆で、左傾化した文政権の約束を守らないデタラメさに日本が堪忍袋の緒を切ったのだ。共同作品というなら、こうなるとの計算づくで文政権と朝日と日本の左派識者らが呼応して作ったものではあるだろう。こうも書いている。
徴用工問題と関連した報復性輸出規制は日本政府各省庁の官僚集団が下した合理的決定ではなく、安倍首相が官邸で少数だけを招集して決めたものと朝日新聞は18日に報道した。この措置はこれまで日本の主要メディアとオピニオンリーダーの批判を受けてきた。安倍首相の日本国内支持基盤が強いとは見られない理由だ。
この朝日報道も真偽不詳だ。官邸がわざわざこれを取り上げて否定するはずがないことを見越しての記事だ。が、韓国紙が希望的観測で書いた「安倍首相の日本国内支持基盤が強いとは見られない」は嘘だ。こと韓国対応に関する政権支持率は滅法高い。
14日の朝日が報じた、日ごろ安倍政権に批判的な中島岳志東工大教授のインタビューも載せている。
「韓国が経済成長で国力をつける一方、世界における日本の相対的地位が下がったこと」が韓国への否定的言論の広がりの原因と分析した。彼は「韓国の姿勢も“日本に言うべきことは言う”と変化した。一部の日本人にとって、隣国の韓国が自己主張を強める姿は自信喪失と相まって気に入らない。保守派、とくに年長の世代により表れている」と説明した。
親韓派の進藤榮一筑波大名誉教授の話も同工異曲。なお、東アジア共同体論者で知られる進藤教授は17日、ハンギョレにも「日本社会に横たわる韓中への嫉妬、韓日関係を難しくする」との記事を寄稿した。
「安倍首相をはじめとする保守政権だけでなく日本社会全般に広まっている“潜在的嫉妬”の感情が韓日関係を難しくする」と説明した。進藤教授は「日本のバブル崩壊後、急速な経済発展に成功した中国と韓国に対する“潜在的嫉妬”が日本社会にある」という。
こうした「日本嫉妬論」を良く耳にする。が、この中島・進藤両先生の論、果たしてそうだろうか。確かに日本の失われた20年の間に中韓は目覚ましい経済発展を遂げ、韓国の1人当りGDPは3万ドルを超えた。中国も上位1割ほどはその水準だろう。
が、だからといって筆者は勿論、周りにも中韓に嫉妬している者などおらず、非難の矛先は悪夢の民主党政権期のみならず現下の安倍政権の経済政策にも向いている。公共事業抑制然り、財政緊縮策然り、消費税値上げ然り、といった具合。誰ひとり中韓を羨んだりしてはいない。
朝日やこの手の学者の話を引用して日本の世論だと思わせるのは韓国を誤らせ、実に罪深い。先日もハンギョレが、作家の平野啓一郎氏が朝日のインタビューで嫌韓世論に「強制徴用判決文読め」と述べたとする記事を載せた。
平野氏は「(TVは)判決文も読まないような出演者にコメントさせてはいけない。まず、判決文を読むべき。判決文(*で原告の話)を読んでショックを受けないはずはない」という。前段には同感だ。が、後段は意見が違う。なぜなら、この裁判で日本企業は事実関係を争わなかったからだ。
どういうことかといえば、原告の言い分が100%通ったということ。が、それが事実かどうか客観性は皆無、80年も前の記憶が正確性を欠くことは慰安婦の聞き取りで明らかだ。この問題では落星台研究所イ・ウンヨン氏の詳細な研究もあるのを知っている者も今や少なくない。
筆者は逆に、ものを知らない平野氏にショックを受けた。そこで「韓国は国と国との約束を守れ!」の話に戻して本稿を結びたい。大事なのは「国と国との約束を守れ」と「国際法を守れ」とは少し違うということ。
「国際法は国内法に優越する」と書かれた国際法がある訳でなく、目下は「合意は守られるべし」という理論が優位というに過ぎない。国際法と国内法とを等位に見る理論もあり、韓国憲法第6条1項には「この憲法により締結·公布された条約と一般的に承認された国際法規は国内法と同等の効力を有する」とある。
「現代国際法講義」(有斐閣)によれば「国際法と国内法との抵触が生ずるときは事前に調和をはかるのが通例」だそうだ。調和の一つに、司法が外交や防衛などの高度に政治的な判断に踏み込まないことがある。
韓国が「国と国の約束を守る」には文政権が超法規的措置を採るしかないと知るべきだ。
高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。