即位礼正殿の儀:患者に寄り添う医療をめざし引き締まる思い

「即位礼正殿の儀」の様子を身が引き締まる思いでテレビで拝見した。2千年に渡る日本の伝統の荘厳さが伝わってきた。儀式が始まる頃、東京の上空に美しい180度の虹がかかっていた場面が紹介されていた。陛下が、お言葉の中で、上皇陛下が祈念されていた世界の平和を強調されていたのが印象的だった。日本人の叡智と努力が結集された結果が、この2千年という世界に例を見ない歴史を築き上げたのだと改めて思った。まさに、One Teamで歴史を作ってきたのだ。

首相官邸YouTubeより

One Teamといえば、日曜日は残念な結果だった。私は高校の体育の授業で多くの時間をラグビーに費やしていたので、ルールは熟知しているが、ルールを知らない、にわかラグビーファンも含め、日本中に感動の波を伝えた1か月間であった。One Teamというキャッチコピーは、絆を大切にする日本人の気持ちにぴったりだ。聖徳太子の「和をもって尊しとなす」の精神にも通ずるものがある。

上皇陛下、上皇后陛下は、大災害の度に被災地に足を運ばれ、被災者に寄り添って励まされていた。被災地の方々も励まされたであろうし、その姿を見て、われわれは日本の心を学んだ。災害の中にあっても秩序を保ち、お互いを励まし合う文化は、長い間に渡って受け継がれてきた日本の文化であり、その象徴が天皇陛下であると改めて想った。

その姿を目の当たりにして感ずるのが、患者や家族に寄り添わないがん医療の現状である。これに関しては14日の産経新聞の正論欄で声をあげた。

患者や家族に寄り添うがん医療 がん研がんプレシジョン医療研究センター所長・中村祐輔(産経新聞)

困った時、苦しい時に支えてこそ「医療」だと思うのだが、困った状況で何もしてはいけないのが、今の標準的保険医療だ。科学的思考よりも、経済的論理が優先される弊害であり、おかしな話だ。がん遺伝子パネル検査を保険で提供しても、それで見つかった分子標的治療薬には保険が使えない。これは悲劇を通り越して、喜劇だ。患者に寄り添わない医療を象徴している現実がここにある。綺麗ごとでなく、患者さんの立場で、患者さんの求める医療を提供するのが政治・行政の責任だと思うが、そのようにはなっていない。

メキシコから戻ってきた翌日、あまりの疲労感に早く帰宅してベッドに横たわり、国会論戦を見ていた。ずいぶん無駄なお金が国から投資されている話を聞いて唖然とした。しかし、民間がリスクを取らない・取れない投資案件に投資して、失敗した案件について、法案の条文をもとに「なぜ失敗したのか」と突っ込まれた閣僚が何とも恍けた答弁をしていた。これも、まるで、喜劇だ。

リスクが高くて民間が投資に後ろ向きな案件に投資して、すべてうまくいくはずがない。こんなことは投資の素人でもわかる話だ。それに対して、条文を盾にとって突っ込む方も、返答するのも時間の無駄だと思う。投資におかしなところがあれば、それを事実に基づいて追及すればいいものを、何を言いたいのかわからないような単なるパーフォーマンスだ。

このままでは医療保険制度の維持が困難になってくるのは確実だ。患者さんや家族に寄り添う医療とは何か、もっとこの国にとって大切な議論をして欲しいものだ。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2019年10月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。