ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)では、今年7月に急死された天野之弥事務局長の後任選出が進められているが、難航している。21日には特別理事会(理事国35カ国)が開催され、第1回投票が行われたばかりだ。28日午後には第3回目の投票が行われる予定だ。
次期候補者に最初は4人が出馬していたが、非公式の投票(10月10日、15日)の結果、支持者がゼロだったスロバキア原子力安全委員会のジアコバ委員長が出馬を取りやめたため、21日の第1回投票は、フェルータIAEA事務局長代行(ルーマニア)、在ウィーン国際機関アルゼンチン代表部のグロッシ大使、そして包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備委員会暫定技術事務局長を務めるブルキナ・ファソ出身のラッシーナ・ゼルボ氏(55)の3人となった。
IAEA側の発表では、第1回投票の結果、1位はグロッシ大使15票、それを追ってフェルータ事務局長代行14票、ゼルボ氏5票だった。上位2候補者による第2回投票ではフェルータ事務局長代行が17票でトップに躍り出、グロッシ大使は16票だった。
当選のためには有効投票の3分の2の支持を獲得しなければならない。理事国35カ国が投票した場合、24票の支持が必要となる。第2回投票のような場合(棄権2カ国)、22票で十分だ。当選者が出るまで投票は繰り返されるが、当選条件を満たす候補者が出ない場合、新たな候補者を立てて投票をやり直すことになる。なお、新事務局長は総会(加盟国171カ国)によって承認を受ける。新事務局長の任期は来年1月1日からスタートする予定だ。
2019年から20年の理事国は以下の通り。同35カ国が事務局長を選出する。理事会議長はミカエラ・クミン・グラニットIAEA担当スウェーデン大使だ。
Argentina, Australia, Azerbaijan, Belgium, Brazil, Canada, China, Ecuador, Egypt, Estonia, France, Germany, Ghana, Greece, Hungary, India, Italy, Japan, Kuwait, Mongolia, Morocco, Niger, Nigeria, Norway, Pakistan, Panama, Paraguay, the Russian Federation, Saudi Arabia, South Africa, Sweden, Thailand, the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland, the United States of America and Uruguay.
参考までに、IAEA事務局長(任期4年)は故天野氏が第5代目だった。天野氏は2009年に初めて当選し、2013年、17年と3選したが、3期目の途中7月18日に亡くなった。
4代目はエジプト出身のモハメド・エルバラダイ氏が1997年から2009年まで任期3期を務め、2005年にはIAEAと共にノーベル平和賞を受賞した。スウェーデン外相を務めたハンス・ブリクス氏が1981年から97年の4期を務めた。同じくスウェーデンからシグバード・エクランド氏が61年から81年、そして初代事務局長は米国出身のスターリング・コール氏が57年から61年まで短期間務めた。
IAEAは核エネルギーを扱う純粋な技術機関だが、加盟国の様々な政治的思惑を無視しては運営できない点で、他の国連専門機関と同じだ。亡くなった天野氏はイランの核合意問題では米国のトランプ政権から嫌われる立場だった。「イランは核合意を順守している」と理事会で報告する度に、米国からバッシングを受けてきた経緯がある。
また、北朝鮮の核問題では、IAEA査察官が2009年4月、北から国外追放されて以来、同国の核活動を検証できないなど、難問が山積しているだけに、誰が事務局長に選出されたとしても、その職務は重く、困難が伴なうだろう。
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「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年10月26日の記事に一部加筆。